熊野古道で奥熊野へと続く熊野川をさかのぼり、支流の大塔川(おおとがわ)へ入ると、ほどなく川湯温泉が見えてくる。この川原には温泉が噴き出す場所があり、毎年冬になると広大な大露天風呂が登場する。
川湯温泉 仙人風呂(冬季のみ)
所在地:和歌山県田辺市本宮町 大塔川
TEL:0735-42-0735(熊野本宮観光協会)
●泉質:単純温泉
●源泉温度:73度
●湧出量:不明
●pH:不明
●期間:12月~2月末(予定)
●入浴時間:6:30~22:00
●料金:無料
所在地:和歌山県田辺市本宮町 大塔川
TEL:0735-42-0735(熊野本宮観光協会)
●泉質:単純温泉
●源泉温度:73度
●湧出量:不明
●pH:不明
●期間:12月~2月末(予定)
●入浴時間:6:30~22:00
●料金:無料
温泉宿の並ぶ街道から、簡易橋を渡って対岸へ
小石の合間から湯が吹き出して泡が立っている
川の流れをせき止めて、簡易の天然露天風呂を満喫
冬にはこの一帯全体が巨大な露天風呂となる
4柱を祀る熊野本宮大社。八咫烏が熊野で神武天皇を導いた
世界遺産に登録された熊野三山のなかでも、熊野本宮大社はその中心となる存在だ。
明治中期まで、熊野本宮大社は現在の場所から500mほど離れた中州にあった。
熊野本宮観光協会のホームページに、旧社地の由来が記されている。
熊野川、音無川、岩田川の合流点にあった旧社地は大斎原(おおゆのはら)と呼ばれ、1万1000坪の境内に5棟12社の社殿、楼門、神楽殿や能舞台がある広大な敷地であったという。
中洲へは橋がかけられることなく、参詣に訪れる者は音無川を歩いて渡らなければならなかった。いわば身を清める最後の水垢離として、着物の裾を濡らしてから詣でるのが参拝のしきたりであった。
明治二十二年(1889)に大水害が起こったために社殿の多くが流出し、水害を免れた4社を現在の場所へ遷座させた。
熊野本宮大社での参拝を終えると、そのまま船で熊野川を下れば、河口にある新宮(熊野速玉大社)に辿り着くことができる。
熊野灘をそのまま南下すれば那智へ、北上して志摩半島を回り込めば伊勢に至る。
熊野に祀られた神々は、古代日本に降臨した海運の神でもある。
いにしえの人々は水上交通に長け、木材や炭など、生活物資の輸送で船を用いていた。
熊野川の恩恵を受けながら生活をしていたことがしのばれる。
熊野本宮大社からやや下り、支流の大塔川をさかのぼっていくと、すぐ川沿いに川湯温泉が現れる。
5軒ほどの旅館といくつかの民宿がある小さな温泉地だが、目の前を流れる川岸からは温泉が自然湧出する。
温泉が発見された時期は不明だが、実際に浴場を設けて温泉地として開かれるのは安土桃山時代になってからのことだ。
『日本鉱泉誌』(内務省衛生局編纂・明治十九年刊)に記述がある。
<文禄中本郡請川村小淵縫之助ナル者初テ浴場ヲ開キ泉側薬師ノ祠ヲ安ス>
文禄は関ヶ原の戦いの直前、1593~1596年に当たる。後陽成天皇の御代で、豊臣秀吉が権勢をふるっていた。
川岸に下り、簡易の橋を渡って対岸にゆくと、一部セメントで囲ってある部分があった。
川面に目を凝らすと、ところどころ、ぽつぽつと泡が立っている。
湯が湧いているのだ。
手を入れると、湯底から、熱い温泉が湧き出ているのがわかった。
石を積んで川の流れをせき止めれば、ここは天然の露天風呂になる。
水量が減る冬になると、毎年ここに巨大な露天風呂が姿を表す。観光協会と地元の旅館が共同して脱衣所を設け、無料の露天風呂として開放している。
ひと足早く、温泉気分を味わうことにした。
川の流れをせき止め、湯だまりをつくる。
湯温がけっこう熱いので、水を注ぎ込む口を大きくして調節する。
湯は腰のあたりまで溜まった。
簡易露天風呂の完成だ。
気泡が立つ場所に近づくと、砂利の隙間から湯が吹き出していて入っていられないぐらい熱い。手で川水を誘いながら、温度を冷ましながらの入浴。
観光協会の方の話によると、冬には重機を使ってもっと本格的な天然風呂を造成するのだという。
まさに千人も入れそうなぐらい、規模が大きな仙人風呂ができあがる。
期間中の毎週土曜日には、湯船の周りに灯篭を並べ、星空を眺めながらの幻想的な雰囲気で入浴できる。
自然の恵みが豊かなこの土地は、やはり奥熊野の聖地にふさわしい。
いにしえの人々にとっても、湯の恵みは神域の象徴になったのではないだろうか。
本宮への参拝と合わせ、ぜひ体感してもらいたい、大自然の野湯だ。
南紀白浜空港からは約58㎞、阪和自動車道・南紀田辺ICからは約54㎞、ともに国道311号線経由で約70分。新宮市からは国道168号線経由で約33㎞、40分。
仙人風呂より下流約200mに約50台の無料駐車場あり。男女混浴だが男女別の簡易更衣場があり、水着での入浴も可能。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。