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新東名高速道路が延伸し、浜松いなさJCT以西へのアクセスも便利になった。鳳来寺山にある東照宮を参拝し、鳳来峡にある湯谷温泉へと足を伸ばしてみた。
鳳来山東照宮
所在地:愛知県新城市門谷字鳳来寺4番地
TEL:0536-35-1176

湯谷温泉 ゆかわ
所在地:愛知県新城市豊岡字滝上5-1
TEL:0536-32-1508
●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
●源泉温度:5号泉/25.0度、7号泉35.9度
●pH:不明
●営業時間:10:30~19:00(2月28日までは16:00温泉受付終了・16:30温泉終了)
●日帰り入湯料:1000円(食事注文時は無料)
●定休日:木曜(祝祭日は営業)


駐車場から東照宮へと向かう道路から。右側の絶壁、鏡岩の下に鳳来寺が見える

東照宮拝殿。建物はそれほど大きくはないが、細かな細工を施してあるのは東照宮ならでは


湯谷温泉全景。駐車場から宇連川の馬背岩入口を入ると絶景スポットがある


ゆかわの露天風呂。かつては混浴だった大きな浴槽。宇連川の岩の様子が一望できる


温泉街入口の駐車場にある足湯。利修仙人が利用者を見守る。夕方、地元の人が集まってきていた


2016年2月13日、新東名高速道路が延伸し、浜松いなさJCTから豊田東JCTまでの約55㎞の区間が開通した。
東名高速道路の慢性的な渋滞を受け、高速道の複線化が進んでいたが、すでに開通していた御殿場JCTからの区間と合わせ、約200㎞のダブルネットワークが完成したことになる。
ひと足早く、新東名自動車道路を走ってのドライブに出かけることにした。  

目的地は鳳来寺山。基点は新東名自動車道路の新城ICだ。
JR飯田線に沿って国道151号線を東に向かう。

長篠交差点で左折。県道32号線の伊那街道を北上していく。
この一帯は、武田勝頼が織田・徳川連合軍と対峙した、長篠の合戦地でもある。
いまでは住宅地が広がり、長篠城址には堀の跡が残るばかりだ。
北上すると風景は一転し、住宅地から林道へと変わった。
新城ICから15分ほど走ったところで、県道389号線と合流。右折して湯谷温泉方面へと進む。
途中、鳳来寺山パークウェイの有料道路へと切り替わった。勾配の急なワインディングロード。標高はぐんぐん上がっていく。

10分ほどで目的地の駐車場に到着した。クルマが入れるのはここまで。
この先に「鳳来山東照宮」はある。

東照宮とは東照大権現と称される徳川家康を祀る神社のことで、日光が有名だが、じつは全国にいくつもある。
家康が元和2年(1616)に亡くなった後、最初に埋葬されたのが、現在の静岡市にある「久能山東照宮」。
2015年に鎮座400年を迎えた由緒ある権現造りの神社だ。
翌、元和3年(1617)には日光へ改葬されることになった。  

家康の遺命は久能山への埋葬と日光山への神社造営で、第3代将軍家光の命による寛永の大改築(1634-1636)によって、日光が東照宮の本社的な存在となった。

鳳来寺山には、松平広忠公夫妻が薬師如来に祈願し、その後まもなく竹千代(のちの家康)を授かったという所伝がある。
鳳来山東照宮はこの故事を知った家光の発願によって、慶安元年(1648)から勧請が進められたものだ。  

鳳来寺山の縁起は古く、寺伝では大宝2年(702)に利修仙人の開創とある。霊木の杉から本尊の薬師如来、月光菩薩、十二神将、四天王を彫刻したと伝えられている。  

慶安4年(1651)、第4代将軍家綱の代に鳳来山東照宮社殿が落成。薬師堂も再建された。
鳳来寺山には東照宮のほかに、明治5年の神仏分離によって分祀された鳳来寺がある。
昭和28年(1953)には鳳来山東照宮が国の重要文化財に指定され、山全体が国の名勝天然記念物に指定されている。

駐車場から鳳来山東照宮へ向かう際、断崖絶壁の鏡岩と鳳来寺の本堂が見えてくる。
よくぞこんな山中に、と驚かされる。  

東照宮へは、最後に急勾配の石段を上がって行かなければならない。
江戸時代には許状を持った特別な者しか、この階段を上がることはできなかった。

登りきると、ようやく朱塗りの拝殿が現れた。
拝殿の奥には本殿もあり、御寄進をすることで拝殿の脇から眺めることもできる。
権現造りで、きらびやかな装飾が、日光を思い起こさせる。
奥三河の霊地として開かれた鳳来寺山。いまでこそクルマで東照宮のすぐ近くまで上がってくることができるが、かつては参道入口から1425段の石段を歩いて来なければならなかった。
鬱蒼とした杉木立の参道を上り、苦労の末に現れる荘厳な東照宮に、古の人々はより深い感動を覚えたことだろう。  

鳳来寺山からクルマで下るには、長篠から来た道を戻るほかに、JR飯田線の湯谷温泉駅へ向かうルートもある。
湯谷温泉と書いてゆやおんせんと読む。

飯田線に沿って流れるのが宇連川(うれがわ)だ。
川底が板を敷いたように見えることから板敷川とも呼ばれる。
湯谷温泉は、その川のたもとに湧いている。  

開湯は鳳来寺山と同じ利修。
寛政10年(1798)に建立された「鳳液泉の碑」には、<鳳来寺の開祖利修仙人は、たびたびこの溪泉に浴して精神と肉体の調和をはかったので、風にのり、笙を吹き、天下に遊び、よく長寿を保ったといわれる>とある。  

東照宮に「利修仙人伝」が掲示してあった。
<利修仙人は山城国端正郡(はまさのごうり・京都市)の人、欽明天皇31年(570)生まれという。百済国に渡って仏法を学んだのち、この鳳来の地へ来て千寿峯、万寿坂で修導し、白鳳元年(672)入山した>
鳳凰に乗って笙を吹きながら都に上り、3匹の鬼を従えて自在に操ったという伝説も残る。元慶2年(878)に309歳で没したというから、どこまでが史実なのかと思うが、まさに超人的な活躍ぶりだ。  

神仏分離によって分かれることとなる鳳来寺は、鎌倉時代には源頼朝によって再興されたものの、明治期の窮乏による廃絶や度重なる火災などによって資料は残されていないようだ。
また、利修という修験者に対する伝承は、私は鳳来寺山以外で見かけたことがない。彼の伝承については東照宮伝や郷土史家の研究によるしかないのだろう。  

鳳来寺山パークウェイと県道439号線が交わる湯谷温泉街入口に、足湯スペースと駐車場がある。
足湯には利修仙人の像があり、一番新しい7号源泉もこの近くにあると地元の方に聞いた。温泉は自治体が一括管理し、泉温が低いため、加熱して各宿に配湯している。
温泉街には8軒ほどの湯宿と3軒の食事処があり、そのいくつかで日帰り入浴をすることができる。

日帰り湯で立ち寄ったのは、食事処を営む炭焼料理ゆかわ。
ここは板敷川に面し、入湯料を支払えば露天風呂に入ることができる。また、食事をすると無料でお風呂に入れる。
名物は近辺で獲れた猪肉のしし鍋(一人前5400円)。冬季限定の味噌鍋メニューで、ジビエが苦手の人向けに、もう少し安い豚鍋や鶏鍋もある。

さて、露天風呂はといえば、浴槽は階段を下った川沿いにあった。
木造のトビラを開けると脱衣スペースがあり、川を望むように大きな浴槽が設えてある。
ご主人の話によると、かつて、ここは混浴だったそうだ。だが15年3月末をもって混浴は中止。現在は男湯となっている。  

ゆかわは昭和初期に先代が旅館業を営むようになり、日帰り入浴に切り替えたのは30年ほど前のこと。
混浴施設として老若男女に親しまれてきたが、スマホが登場してから様子が一変した。
女性の裸を見世物にする人物がカップルを装い、混浴を訪れるタイミングをネットに投稿し、それ目当ての客が集まるようになっていたという。
純粋に温泉を楽しみに来ていた客にとっては迷惑きわまりない。
対策として混浴を中止し、女性専用の浴槽も設けた。いまは落ち着きを取り戻し、まっとうな温泉客が訪れるようになっている。

湯谷温泉の湯は、皮膚病に効くと評判の食塩泉だ。
温められた湯が豊富に注がれているが、それとは別にわずかに源泉が注がれている湯口があった。なめるとはっきりと塩気を感じ、なかなか滋味深い。
入湯していた男性に話を聞くと、この湯に入るため、月に2回のペースで名古屋から訪れているという。
湯力を感じられる温泉は、このあたりではなかなか珍しいらしい。  

これまで私が訪れた自然湧出する温泉地は、たいてい川沿いにあった。湯谷温泉というその名のとおり、かつては溪谷に下りて行った場所で湯が湧いていたのだろう。  

全国ではボーリングによる開発が進んで、新しい温泉宿が次々にできている。それとは反対に、歴史を感じられる温泉街で勢いを失いつつあるところも少なくない。
由緒正しい歴史ある湯谷温泉を守っていく試みは、これからの温泉街を担う若き経営者たちの双肩にかかっているのだろう。

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高速道路から湯谷温泉へ直行するには、新東名高速道路の浜松いなさJCTから三遠南進自動車道を北上し、鳳来峡ICから向かうルートもある。鳳来峡ICから湯谷温泉までは約7㎞、10分。新東名高速道路・新城ICから湯谷温泉までは約9㎞、14分。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
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