今なお都電が走る雑司が谷の一角に鬼子母神があります。安産、子育ての神として信仰を集めるだけに、家族のいる方なら一度は訪れたいパワースポットです。ここを訪ねるのに、クルマと都電を利用するのはいかがでしょう?
都電荒川線鬼子母神前駅周辺
鬼子母神への目印であるケヤキ並木の参道
70歳を過ぎている方なら、都心を縦横無尽に走る都電の姿を覚えているかもしれません。1955年の最盛期には40の運転系統があり、都電の路線延長は200kmを超えていました。
しかし、自動車文化の発達と共に、クルマの通行の妨げとなる都電(線路の多くは幹線道路上にありました)は廃止されて地下鉄やバスへ形態が変わり、ほとんどの都電が姿を消しました。
東京駅前、銀座にも都電が走っていたのですが、若い世代には想像もつきません。
現在、都電は1路線のみ。三ノ輪橋から町屋駅前、王子駅前、大塚駅前、東池袋四丁目を通り、早稲田まで行く荒川線があるだけです。
サンシャインシティの高層ビルに近い東池袋四丁目駅から早稲田方面にひと駅。それが鬼子母神前駅です。
小さな商店街にある駅で、東京メトロ副都心線雑司が谷駅に接続しているとはいえ、賑やかさはありません。周囲は都会の中にひっそりと残った緑の多い一角といった雰囲気です。
駅のそばには夏目漱石やジョン万次郎らの偉人が眠る都立雑司が谷霊園があります。さらに、大黒天(鬼子母神)、恵比寿神(大鳥神社)、毘沙門天(清立院)などの「雑司が谷七福神巡り」が楽しめるぐらい散策ルートも確立しています。
鬼子母神を訪ねるなら、都電を利用することをおすすめします。鬼子母神のそばにクルマを停められるスペースはほとんどありません。ならば、都電荒川線のどこかの駅のそばのコインパーキングにクルマを入れ、昭和のレトロ感たっぷりの都電を利用してみてはいかがでしょう?
都電はかつて「ちんちん電車」と呼ばれていました。車掌がヒモを引いて鐘をチンチンと鳴らすのが由来という説が有力です。
1回のチンなら「停まります」の合図、2回なら「発車します」あるいは「降りる方がいないのなら通過します」といった意味もあったとか。
ちんちん電車でパワースポットを訪れるというのも、なかなか情緒があるものです。
鬼子母神前駅を降りたらケヤキ並木をめざしましょう。
雨上がりの鬼子母神は雰囲気がありました
安産、子育てにご利益があります
風水ではザクロも安産によいとされています
鬼子母神前駅付近から続くケヤキ並木は、鬼子母神の参道です。古いもので樹齢400年を誇りますが、老木だけに傷みも激しく、現在では若木を補いながら景観を維持しています。
並木を過ぎると鬼子母神があります。樹齢約700年の大銀杏などが茂り、高層ビル群が近くに立つとは思えないほど緑に覆われた鬼子母神堂が印象的です。
ここに祀られている鬼子母神像は1561年に柳下若挟守の家臣によって現在の文京区目白台の地より掘り出されたものです。
その後、信仰はますます盛んになり、1578年に村の人々によって堂宇が建てられて今日に至っています。
現在のお堂は1664年(江戸時代・将軍は徳川4代家綱)に加賀藩主前田利常の息女によって寄進、建立されたものです。時代と共に変化もありましたが、昭和51年から54年にかけて解体復元修理が施され、江戸時代の姿に戻っています。
ところで、鬼子母神とはどんな神様なのでしょうか。
鬼子母神はインドで訶梨帝母(カリテイモ)と呼ばれる夜叉神の娘です。嫁いでからは多くの子どもを産みました。しかし、性格は残虐で近隣の幼児をとって食べるほどでした。
お釈迦様は帝母のためを考え、その末っ子を隠します。帝母は嘆き悲しみました。
「千人のうちの一子を失ってもこんなに悲しいものなのです。一子を食べたとしたら、その父母の嘆きはどれくらいのものだろうか」とお釈迦様は、悲しむ帝母に問いました。
それ以来、帝母は過ちを悟り、安産と子育ての神になることを誓ったそうです。
鬼子母神には「鬼」という字が使われています。幼児を食べていたのですから、「鬼」に違いないでしょう。しかし、ここの鬼子母神像は鬼形ではなく、羽衣をつけ、吉祥果を持ち、幼児を抱いた菩薩形の姿をしています。
そのためでしょうか、雑司ヶ谷鬼子母神の「鬼」の字は、田の上にある点を省いた字を用いています。安産、子育てにご利益のある神であって「鬼にあらず」といった意味なのです。
雑司が谷界隈で見つけたお地蔵様
雑司が谷のシンボルはミミズクです
クルマをどこかに停めて都電で鬼子母神前に来たなら、周囲の散策も楽しみのひとつでしょう。
近年では霊園散歩が流行っています。そして、偉人たちの眠る場所はパワースポットといえます。
鬼子母神をお参りした後は雑司が谷霊園を訪ね、都電雑司ヶ谷駅から帰るというコースがおすすめです。
冒頭でも紹介しましたが、雑司が谷霊園は歴史のある墓地だけに、偉人たちが多く眠っています。
歴史好きならジョン万次郎、北辰一刀流千葉道場創設者の千葉定吉、重太郎親子のお墓を訪れてはいかがでしょう。
文学に興味があるのなら、泉鏡花、永井荷風、夏目漱石、小泉八雲、サトウハチローなど。
芸術・演芸・音楽ならいずみたく、十五代市村羽左衛門、六代尾上梅幸、竹久夢二、そしてタレントであり探検家の川口浩などが眠っています。
また、雑司が谷を歩いていると、ミミズクを目にすることがあると思います。
「すすきみみずく」と呼ばれるススキの穂を束ねて作られる、ミミズクの人形が界隈の名物でもあるのです。
名物が生まれた背景にも鬼子母神が登場します。その昔、母親の薬代を貧乏なために工面できなかった娘が祈りを奉げると、夢に鬼子母神が現れて「ススキの穂でミミズクを作って売りなさい」と告げられます。その通りにすると、それが売れて薬が買えて母の病も治ったというのです。
いつしかミミズクは雑司が谷のシンボル的な存在になりました。
数年前に取材したときは、おばあさんが「すすきみみずく」を作る小さなお店を見つけました。今回は朝が早くお店が閉まっていたためか、見つけることができませんでした。もしも訪ねたときにお店を見つけたら、ぜひ立ち寄って幸運のミミズクをおみやげにしてください。
クルマと都電を使うレトロ感覚あふれるパワースポットめぐり。ぜひ、おでかけくださいね。
●鬼子母神
http://www.kishimojin.jp/index.html#
●雑司が谷 案内所
https://www.toshima-mirai.jp/zoshigaya/index.html
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。