海外旅行に行くと“街の名所”として教会や大聖堂に行くことがままあります。日本にも以前この連載で取り上げた長崎や天草の教会のように、地域のシンボルになっているところがあります。スペインにある天才建築家アントニ・ガウディの教会と日本の名教会をご紹介します。
サグラダ・ファミリア聖堂内。柱が巨大な樹木に見えます
赤系の色を多く使ったステンドグラスの一部
観光客のバックはサグラダ・ファミリアの独特な扉
スペイン・バルセロナに仕事やレジャーで行くと、必ず立ち寄るのがアントニ・ガウディによる建造物とピカソ美術館です。
ガウディ…。名前を聞いたことがある人も多いでしょう。1852年にスペイン・カタルーニャ地方で生まれ、バルセロナを中心に活動した建築家です。
「彼が狂人なのか、天才なのかは時が明らかにするだろう」と学校長に言わせたガウディは、バルセロナにある彼の学校で建築を学んだ後、設計活動を開始します。
1878年にパリ万国博覧会に出展する手袋店のためのショーケースをデザイン、それに注目したのが繊維会社を経営する大富豪のグエルでした。
以来、グエルは約40年に渡りガウディを支援しています。たとえばコロニア・グエル教会地下聖堂、グエル公園、グエル邸など、彼との関係による建造物は現在もバルセロナや近郊で見ることができます。
独特な設計で世に出たガウディは、1883年にサグラダ・ファミリアの専任建築家となります。
ガウディをご存知ない方も、着工以来100年以上経っても未だ完成しないサグラダ・ファミリアでしたら、「ああ、あの教会」となるでしょう。
現に私が訪れた時も、地下の工房で職人たちが彫刻の一部を作る細かい作業をしていました。
「自然が書いた偉大な書物から学ぶことがすべてである。人間が造る物は、すでにその偉大な書物に書かれている」
これはガウディの言葉です。
この言葉通り、サグラダ・ファミリアの各所に自然をモチーフにしたものと、キリスト教に基づく造形がなされています。
小説『ガウディの鍵』で、ガウディはキリスト教結社の重要な人物となっており、ガウディの建造物の背景はそこに関連していた…という前提で物語が進みます。
そして、ガウディの突然の死もまた、それに関連しているのだ、と。
ガウディの自然に敬意を表した斬新な設計と、ガウディ自身の人間的魅力がサグラダ・ファミリアをますます偉大な存在にしています。
サグラダ・ファミリアは今や世界中から年間300万人以上を集める有数のパワースポットなのです。
キリスト生誕の喜びに満ち溢れた中央門の彫刻
彫刻の雰囲気ががらりと異なる受難のファザード
カブトムシがいるのも門。細かな細工もおもしろい
「私には家族も、客もいないし財産もない。だから、サグラダ・ファミリアに没頭できるのだ」と、ガウディは言っています。
批判もあったものの、ガウディの独特な建造物は各方面から評価を得て、当時完成には300年かかると言われたサグラダ・ファミリアは、その姿をバルセロナの街に現し始めました。
しかしガウディは1926年に不慮の死を迎えます。
路面電車に轢かれて死んでしまうのです。
しかも、サグラダ・ファミリアの設計に没頭していた独身のガウディは着の身着のまま。事故を目撃した人たちは、ガウディだと気付きませんでした。
ガウディ不在を不信に思った知人の神父によってガウディだと確認され、懸命の措置が取られましたが、ガウディは3日後に死亡するのです。
(「ガウディがそんな不幸な死に方をするはずがない。暗殺だったに違いない」というのも小説『ガウディの鍵』の重要な視点になっています)。
ガウディには華やかな部分と、孤独な老人というふたつの顔があったように思われます。そして、その多面性はサグラダ・ファミリアにも見られます。
中央門は細かい彫刻によってマリアの受胎告知、キリスト生誕、天使や羊飼いが描かれています。
左門はローマ兵による虐殺や聖家族の逃避が描かれ、右門はマリアとイエスの洗礼。
そして、西側の「受難のファザード」は中央門とはまったく異なる現在彫刻によって、最後の晩餐、磔(はりつけ)、キリストの昇天が描かれています。
聖堂の大きさに圧倒されますが、芸術品として細かい点を見て行くのもガウディ建築の楽しさなのです。
さて、サグラダ・ファミリアのことばかり書いてきましたが、日本のパワースポットであるお寺や神社、教会でも同様にブッダの生涯や慈悲、修行、キリストの生涯にちなんだ絵画や彫刻をしばしば目にします。
パワースポット巡りでは“訪れる”だけでなく、そこに行かなければ見られない彫刻や絵画などに注目をするのもおもしろいと思います。
美しい仏像、庭の灯篭、渾身の欄間、色鮮やかな絵画などに出合ったとき、それらがもつパワーに圧倒されることも少なくありません。
マヨルカ島の港に近い大聖堂
ステンドグラス越しに虹色の光が注いでいます
バルセロナの約210km南に浮かぶのが沖縄本島の約3倍の面積を有するマヨルカ(マジョルカ)島です。
あまり馴染みのない島かもしれません。しかし、この島で生まれた食品は、私たちの食卓には欠かせないもので、きっと冷蔵庫にもあるはずです。
それは、マヨネーズなのですから…。
マヨルカ島にあるパルマ大聖堂は、13~17世紀かけて建造されています。1903年、その改修にあたって、ガウディにも協力が依頼されました。
部分的な改修ではありましたが、ガウディが特に力を注いだのがステンドグラスでした。
元々あったステンドグラスを取り外して一新させたのです。
私が訪れた時は晴天で、太陽がとてもまぶしい日。大聖堂の中に入ったときに息を飲みました。
虹色の光線がステンドグラスを通して聖堂内に入り込み、巨大な柱と床を輝かせていたのです。
自然との一体化を常に意識していたガウディによる光の演出でした。
日本にも教会は各地に点在しています。歴史ある聖堂もあれば、近年になって著名建築家の手によって改修されたところもあります。
西洋の教会がそうであるように、日本の教会もステンドグラスが多く見られます。
入場が可能な教会であれば、そこにしばらく佇み、時間と共に変わりゆく光線を眺めてください。
自然や地球、太陽、宇宙が感じられるはず。
日本各地にも名建築教会がある(熊本・天草)
しかし、教会という場所は信仰というパワーに加えて、人間が生きていくうえで絶対に必要な“光”が感じられる場所でもあると思うのです。
ガルヴィの教会を訪ねるのは、気軽な“おでかけ”とは到底いえません。しかし、近所や名所にある入場が可能な日本の名建築に数えられる教会に足を運んでみてください。
そこに差し込む眩しい光、あるいは柔らかな光は、訪れた人のパワーとなるに違いありません。
ステンドグラスから差し込む光以外には、キャンドルの灯りがわずかにあるような教会。そこは光の場所なのです。
●バルセロナのガウディ建築
https://allabout.co.jp/gm/gc/379889/
●日本の美しすぎる教会
http://mery.jp/128081
●長崎・天草キリスト教会群(バックナンバー)
http://www.smart-acs.com/magazine/15120101/experience001.php
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。