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駅や電車内はスマートフォンに熱中している人だらけです。もはや、圏外での生活は考えられないといった素振り。そして、地下駅を照らし、電車を動かしているのは電気です。現在の生活を保つうえで“絶対”である電気と携帯、これらがない生活は考えられますか?

玄関の奥にはランプがいっぱい


清水で冷やしたドリンク。冷蔵庫はない


自然に面した部屋。サルの鳴き声が聴こえた


日本でもフリーWi-Fiが設置されてきているので、ネットで調べごとをしたり、情報収集するのが楽になった。

もちろん海外でも同様で、最近でかけたタイや韓国、カナダでもフリーWi-Fiを設置しているホテルやお店はそこかしこにあり、食事やお茶をしながらネット検索したものだ。

ただし、この状況が万国共通かといえば、そうでもない。

たとえば中国は外国人のSNSが規制されているので、取材ででかけた数日間は、FBも、ラインも、まったくできなかった。

普通の携帯メールなら交信が可能だが、こちらは通信費が高くつく。海外にいるときは機内モードに設定して、Wi-Fiを探してお金のかからないラインなどで通信するのが常だから、それができないとなると、とても不便だった。

家人には「SNS通じないからね、本当に用があるなら電話して」と伝えて中国に旅立ったものだ。

そう、僕たちは国内だろうが、海外だろうが、文明の進歩のお世話になりながら生きている。

少し前では考えられなかった海外での無料の交信や、ネット検索が当たり前になっていて、それをうまく活用しながら暮らしているのだ。

しかし、世の中にはこれらの文明の援助がいっさい受けられない場所が存在している。日本にだって存在するのだ。

ランプやランタンを点すキャンプ場は比較的近いかもしれない。しかし、「高規格」と呼ばれる国内のキャンプ場はたいてい圏内だし、夜間でも外灯が点っている。山小屋でも同様だ。電気が通じている山小屋も少なくない。

7月の海の日を含む3連休、僕は電気がない溪谷奥の宿にいた。携帯電話は圏外、カズレーザーのギャグができないぐらいWi-Fiはまったく飛んでない。

部屋はきちんとしているのだが、室内はガランとしている。テレビもなければ、コンセントもない。そりゃそうだ。電気が通じていないのだから…。

時間限定で動かす自家発電装置はあるというが、それがなぜだか稼働していないため、まさに“ノー電気生活”となった。

長い階段を照らすランプ


ランプを囲んで夜のひとときを過ごした


「これより圏外。ではまたね」と、家人にラインして集落から続く渓谷沿いの道に入った。

すぐにWi-Fiも、アンテナの感度を示す表示も消えた。スマホは頭がいいから、どんな場所でもWi-Fiや電波を探し出すべく、やっきになって働く。しかし、それはムダでしかない。

「電源を切っていないと、余計にバッテリーを消費するよ。ここから先、コンセントがないから充電もできない。電源を切ったほうがいいよ」という友人の言葉に従って、スマホの電源を落とす。なんだか、文明社会とさよならする気分だ。

溪谷沿いの細道を走って辿り着いた宿の看板にはランプがかけてあった。「ランプの宿ですよ」といった主張がある。

玄関先にはビールや缶飲料が入った水槽。清水が流れ込んで、それらを冷やす。電気がないのだ、冷蔵庫があるわけでもない。周囲の豊かな自然の力を借りるしかない。

自然の冷却力に任せているので、それほどキンキンに冷えるわけではないが、長旅の疲れを癒すにはほどよい冷え具合。うん、ビールがうまい。

玄関を入るといくつものランプがぶら下がっていた。太陽が沈む頃になれば、これらに火が点り、館内の各所を照らす。

泊まる部屋は廊下を進み、階段を下りた先にあった。外はまだ明るいのだが、廊下と長い階段はやや暗い。足元を照らしてくれるのはランプだった。

この時はまだ、「ランプの光は明るいじゃないか」と思っていた。しかし、闇が周囲を包むと、ランプの灯りでは頼りない。本を読むのは不可能だし、トイレに行くのも一苦労だ。

キャンプ場ではランタンやランプを使って宿泊した経験があった。しかし、先に書いたように外灯があったり、隣接するサイトにもランタンがあったりで、思いの外キャンプ場は明るい。ランタンそのものも、昔に比べて放つ光が明るくなっている。

しかし、昔ながらのランプは、どこまでもやさしい光を放ってはいるが、それほど明るくない。

僕らは夕食後、ささやかな宴会を催したが、正直なところ小さな虫がコップの中に飛び込んだとしても気付かなかっただろう。

しかし、小さく揺らめくランプを囲んで飲む酒は格別だった。



ランプに点灯、そして消灯。フワリとした明るさです


キノコの鍋も堪能。自然の恵みだ


こちらを見つめるカモシカ


電気もない、テレビもない、携帯も通じない。普通なら、オラこんなのいやだぁとなるだろう。

2泊限定だったので、この生活にガマンができ、不満がなかったのかもしれない。それでも、電気とスマホがない日々は、いろいろな発見があった。

「ながらスマホはやめてください」という注意書きが駅などに溢れている。僕らは隙あらばスマホをいじってしまうのだ。ネットを検索したり、SNSに参じたり…。

圏外の宿では誰もスマホをいじらない。会話を妨げる着信音が響くこともない。

テレビを付けているわけではないので、ニュースやバラエティ番組の1シーンに誰かが釘づけになるはずもない。

ランプを囲んで誰かの言葉に耳を傾け、こちらも言葉を発する。そんなシンプルな時間が続くのだ。

都会での生活は会社の会議でこそあまりジャマが入らないし、ながらスマホをする人もいないだろうが、仲間うちの会であっても純粋に会話を楽しむケースは少なくなっている。

誰かから電話が入って話が中断する。誰かが席を外す。スマホでラインを打つ人もいる。わからないことがあれば、すぐにネットで検索する…。

しかし、ランプの宿ではそうはならない。会話にジャマが入らないし、メールを知人に送る人もいない。わからないことがあってもネット検索できないから、みんなで知識を出し合って解決にもっていく。

なんだか、そんなささやかなことが心地よかった。

ランプを囲んで語り合った翌朝は、太陽の光で自然に目が覚めた。周囲を散歩すると、カモシカに出合った。日本にもまだまだ手つかずの自然が残る場所があるのを知った。

文明社会ではネット検索が自由にできる。「ランプの宿」と検索すれば、全国で数軒の宿が見つかると思う。予約までは文明の利器を有効利用し、現地では文明の利器のおよばぬ大自然の中で他のことにジャマされずに時間を楽しみ、失われつつある純粋な会話に興じる。

それはとても素敵な経験だ。

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●ランプ生活のヒント
宿名などはあえて記しません。「ランプの宿」「秘境の宿」などの言葉で検索して、行ってみたいところを見つけてください。
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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