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岐阜県の中央やや東側、名古屋から富山に抜ける国道41号の美濃加茂市と高山市のほぼ中間に下呂温泉はある。有馬温泉(兵庫)、草津温泉(群馬)と並び、「日本三名泉」と称されるだけあり、ぬるりとした肌触りのアルカリ性単純温泉は心地いい。


飛騨川に架かる下呂大橋には温泉の発見者(?)と伝わるシラサギが描かれている

下呂大橋から北部を望む。川沿いには宿泊施設が並び、河原には噴泉池が見える

洋館風の白鷺の湯。大正15年から続く大衆温泉浴場だ

噴泉池。訪れた時は“熱湯風呂”状態。勇気がある入湯した人と、早々に入湯をあきらめた人

下呂温泉には約70軒の宿泊施設と3軒に外湯、飲食店、おみやげ店があるから散策が楽しい

飛騨牛を使ったグルメも。写真は水明館「バーデンバーデン」のプレミアムバーガーセット(1500円)

明治27年に初演を行った「かしも明治座」は入場無料で見学できる回り舞台や奈落などが見もの。下呂温泉からクルマで30分ほど

天領の森だったことにちなんだ酒蔵「天領」。シンガポールのマリーナベイサンズ内レストランでも提供されている

下呂温泉 旅館協同組合
●住所:岐阜県下呂市湯ノ島801-2
●受付時間:8:30~17:00(TEL:0576-25-2064)
●泉質(湯ノ島地区):アルカリ性単純温泉
●源泉温度:56.2度
●pH:8.9


日本人は「三大○○」といった表現が大好きなようで、「日本三霊山」、「三大神滝」などをはじめ、温泉に関しても「日本三名泉」、「日本三古泉」などの三大がいくつか存在する。
下呂温泉も有馬温泉、草津温泉と並び、「日本三名泉」と称されているが、そこにはきちんとした根拠がある。

傷付いた一羽のシラサギが温泉のありかを知らせたという伝説があり、現在では下呂温泉の中心部、飛騨川に架かる下呂大橋にシラサギをモチーフとした碑や飾りが見られる。
歴史のある温泉の多くは、それらの伝説によれば傷付いた動物や鳥が癒す姿を見て発見されているか、旅の僧侶によって見つけられているが、シラサギによって存在が明らかになった下呂温泉もまた1000年におよぶ歴史をもつ古い温泉だ。

室町時代には禅僧・万里集九(ばんりしゅうく)が下呂温泉を名湯と賞賛したと記録に残る。万里集九は近江に生まれ、京で学んだ後に奈良、明石で詩を詠んでおり、さらに応仁の乱以降には都を離れ、近江、美濃、尾張、三河などを転々としているので、それぞれの地の温泉に足を運び、下呂を讃えたのも納得できるのだ。

さらに、江戸時代になると全国の自噴泉は湯治場として人気を集めるようになる。
儒学者・林羅山(はやしらざん)は、江戸初期に京で生まれた。京で仏教を学び、その後に独学で儒学を極めた。徳川家とも深い関わりをもち、長崎や江戸ばかりでなくさまざまな土地を訪ねている。著書も学問書だけでなく、紀行書も残している。紀行書には湯治場として賑わいつつあった温泉も取り上げており、そのなかで下呂温泉を有馬、草津に並ぶ「天下の三名泉」として紹介しているのである。

以来、源泉温度最高84度で湧く、滑らかなアルカリ性単純温泉の下呂温泉は「肌にやさしい湯」としても全国に知られるまでになった。

旅館、ホテル、保養所などを合わせて約70軒の宿泊施設がある下呂温泉。それらの旅館にももちろん温泉が引かれ、趣向を凝らした内湯や露天風呂を楽しむことが可能だ。

「湯めぐり手形」は有効期限半年、利用可能回数3回の日帰り入浴専用手形(1300円)。加盟旅館や現地のコンビニなどで販売されているが、これを利用して各宿の湯をめぐるのもいいものだ。
温泉地によっては「1日限り」などの制約が付いており、1日に3湯入湯といった、少々あわただしく、ハードな温泉めぐりになる場合もある。しかし、こちらは有効期限が半年あるのだから、最初の時は2湯にじっくりと浸かり、次回に訪れた時に1湯に入浴するといったことが可能。
実際に筆者は下呂温泉に宿泊した時、チェックイン前の午後のひとときを宿泊する宿とは別の宿の露天風呂に心行くまで浸かり、チェックアウト後に違う宿の内湯を堪能した。そして、別の日に高山まで出かけた時に下呂温泉に立ち寄り、日帰り入浴施設で名湯を楽しんだのである。
その時に立ち寄った日帰り入浴施設が「白鷺の湯」だ。大正15年に開場した大衆浴場は風情があってとてもいい。ひのきの内湯のみだが、立地がよく、風呂からは飛騨川が一望できる。

さて、宿泊施設や日帰り入浴施設が充実している下呂温泉だが、ここを訪ねたのなら河原に設置された「噴泉池(ふんせんち)」に入湯してみたい。
噴泉池は「川原に池を作ろう」という発想でできたものだ。そこに温泉を流し入れたために湯船となったのだが、最初の発想が池のために噴泉池という名になった。

もう10年ほど前になるだろうか。その時は、噴泉池では水着の着用が禁じられていたと記憶している。風呂の横には飛騨川が流れ、川沿いには宿泊施設が点在しており、その先には山並みが見える。
噴泉池が開放的であるということは、周囲からもはっきり見えるということになる。下呂大橋を渡る浴衣姿の観光客から湯船が丸見えで、それなりに恥ずかしくもあった。
しかし、2010年より水着の着用が義務付けられる。温泉施設ばかりを楽しんでいないで、久しぶりに噴泉池に入湯しようと思って8月に訪ねたら、「水着着用のこと」と大きな注意書きがあって、少々拍子抜けした次第だ。

かけ湯をしてから、足を池(!)に浸ける。これが熱い。下呂温泉は最高湯温が84度だが、集中管理によって55度で供給している。その55度のお湯がそのまま注がれている感じなのだ。
川風によって湯船の湯は冷まされるが、それにしても熱い。噴泉池で入ろうと意気込んでやってきた遠来の客が、手に触っただけで入浴をあきらめる。たまに、がんばって、がんばって入る。そんな感じだ。
もちろん、外気温の影響により適温となる時期もあるだろう。しかし、訪れた時はそうではなかった…。

下呂温泉では温泉街の散策と、周囲のドライブも楽しいものだ。足を延ばせば「天領の森」として徳川幕府に重宝されたヒノキの森もある。また、“地歌舞伎”が盛んだった土地だけに、芝居小屋が残り、現在でも現役として使用されているものもある。
さらに、いい温泉、いい水が湧く地だけに、銘酒として知られる酒蔵もある。

下呂という地名は、「呂」の字の土地に関連して付けられたという説が有力だ。山に囲まれた地でありながら、二つの盆地がある(「呂」の字の口の部分が示す)。下呂は「呂」の下の口に当たる。高山方向(上)に向かえば、「上呂」という地名もあるのだ。ちなみに先に触れた酒蔵は「天領」といい、「呂」の字の口と口の間の萩原町に位置する。
下呂温泉へのおでかけでは、名湯と周囲の散策を楽しみたいものだ。

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< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。旅雑誌などに連載中。
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