景色がよくて広い露天風呂。たとえ湯船のお湯が水道水を沸かしただけでも、気持ちがいいものです。まして、その湯が温泉、それも循環ろ過していない源泉のかけ流しだったら、もっとうれしい気分になります。そこで、「こだわり温泉」体験をしてみました。
那須高原の上部に位置する奥那須温泉大丸温泉旅館の川の湯
鬼首温泉吹上旅館峯雲閣の大露天風呂の横にある温泉滝
【おすすめ川湯】
●奥小安大湯温泉阿部旅館(秋田、夏季のみ)
●鐘釣温泉(富山県)
●切明温泉(長野県)
●尻焼温泉(群馬県)
●奥小安大湯温泉阿部旅館(秋田、夏季のみ)
●鐘釣温泉(富山県)
●切明温泉(長野県)
●尻焼温泉(群馬県)
ドライブでのおでかけの帰り道。日帰り温泉施設を見つけたら、やはり入りたくなる。遊んだ後の汗を、巨大日帰り施設の複数の湯船や露天風呂で流せば、それはもう至福のひとときといえるだろう。
日本は火山が多いだけに温泉大国でもある。実際に3000カ所以上の温泉地が確認されている。
近年ではボーリングによって、多くの日帰り温泉施設が誕生しているから、おでかけのたびに温泉施設を目にするようになった。目の前に山並みが見える広大な露天風呂があれば、湯船の中のお湯が水道水を沸かしただけのものであっても、十分に幸せな気分になる。家のお風呂だって、仕事終わりや遊びにでかけた後に入れば気持ちいいのだから…。
繰り返しになるが日本は温泉国である。温泉の成分も豊富だし、泉質によって効能も異なる。
また、温泉をそのまま湯船に注ぎ、湯船の端からかけ流すような「源泉かけ流し」や、加水なしの100%の温泉に入れる施設も脚光を浴びている。温泉湧出量が比較的少ないために、一度湧いた温泉をろ過しながら循環して使っている温泉施設よりは、源泉かけ流しのほうがうれしいものだ。仕方ないとはいえ、高温の温泉に水を加えて適温にしている湯船よりも、加水しないで温泉に入湯できる100%温泉のほうに効能がありそうな気がする。衛生上の理由で塩素をたくさん入れて、まるでプールのような臭いをさせた湯船より、温泉特有の香りがするほうが気分はよい。
たくさんある温泉施設だからこそ、入る温泉にこだわってみてはいかがだろう。
まずは自然のままの温泉を紹介しよう。その代表格が「川湯」だ。河原で湧く高温の湯に川の水が混じって適温になっていたり、湯が流れて行くうちに冷めて適温となって入れる温泉だ。
湯船がないケースも多いし、混浴(水着着用OK)のところも多い。川の水が混じるから源泉100%ではないが、大昔より動物がキズを癒すのに使用していた温泉でもある。
まず川湯体験を始めてみてはいかがだろう。筆者は紹介しているすべての川湯に入ったが、ワイルド感がありなかなか貴重な体験になった。天然湯船だから場所によっては熱かったり、冷たかったりする。適温の場所を探しながらウロウロするのも、なんとなく笑えてしまうのだ。
湯岐温泉の共同温泉施設「岩風呂」
湯船の中の大岩の合間から湯が泡と一緒に湧く
近ごろ流行りの巨大日帰り温泉施設とはまったく反対のポジションにありながら、地元の人や温泉通に愛されている温泉がある。
たとえば筆者が最近行ったのが福島県の湯岐(ゆぢまた)温泉である。福島東南部の里山の一角に湯岐温泉はある。いわゆる温泉街のイメージとは正反対で、おみやげ屋や食堂はない。民家が数軒と温泉旅館が3軒あるだけの温泉地だ。
山形屋旅館が管理する共同温泉浴場「岩風呂」は、女性時間が設定された混浴の内風呂だ。横5m×タテ2mほどの湯船があるだけ。大勢ででかけるところではないが、比較的空いているので家族だけで入れるかもしれない。
この温泉が抜群なのだ。かつては茨城の漁村に暮らす漁師たちが、シーズンオフに湯治にやってきた。さらに、土地の殿様が保養施設にしたという説もある。
湯船の中には大きな岩があり、そこに切り込みが入っている。その昔、木製の湯船を設置するのに使った切り込みで、殿様が大岩を背に入ったのだろう。
なぜ、そこに木枠を設置したのか。それは、その部分の大岩の割れ目から湯が湧いているからだ。その湯は現在でも湧き続けている。ややぬるい湯が湧き、加えて湯船横からは別の熱めの源泉が注がれて適温になる。
泉質はアルカリ性単純温泉。肌がすべすべになり、それでいてピリリとしないやさしい湯なので、湯温とともに長湯に最適な温泉なのだ。こんな、宿泊しなくても入れる共同温泉施設が全国にはあるのだ。街道筋の大型施設もよいが、たまには温泉の質にこだわって共同浴場を探すのもいいだろう。
泡が温泉とともに湧出するぶくぶく自噴泉
北海道然別峡かんの温泉の「イコロ・ボッカの湯」
源泉かけ流し、温泉100%などと極上の温泉に触れてきた。そのなかで、究極の温泉と思うのは、湯船の中で温泉が湧いている「ぶくぶく自噴泉」だ。
自然湧出する温泉のまわりに湯船を造って温泉を溜めて入る。非常に単純な仕組みだが、これがなかなかない。
たとえば、100度の高温で湧いてしまうと、そのまま入浴するのは不可能になる。多少温度が高くても、湧出量が多ければ大きめの湯船を造り、自然に冷ませば入れるようになるだろう。しかし、湧出量がわずかしかなければ、一気に冷めてしまってこれもまた入れない。
大昔のボーリング技術がなかった時代は、自然に出ているお湯を溜めて、そこに入るというのは自然だっただろう。しかし、今日では大勢のゲストを迎えるために温泉を循環させたり、加水したりしているケースも目立つ。また、バブル時代や温泉の大ブームが起きた時に浴室を一気に大きくして、自噴泉湯船を壊してしまったところもある。
つまり、それなりの湧出量が入浴適温で、湯底から湧き出している湯船が残っているということは「奇跡」とも言えるのだ。
実際、筆者とスタッフが全国を4年前に、そして今回改めてまわってみたが、確認できたぶくぶく自噴泉は70カ所に満たない。
もしも、そんな温泉に入れたのなら、温泉の価値観が変わると思う。
湯底から泡とともに温泉が湧出しているのだ。これほど新鮮な温泉は他にない。加えて、ポコン、ぷくぷく、ぶくぶく、と泡が弾ける音が聞こえる。天然の自噴泉が奏でる音色を楽しみながら入浴できるのだ。
奇跡の湯、ぶくぶく自噴泉体験をしてみませんか?
【おまけ動画】
アイヌの言葉で、宝が湧き上がるを意味する「イコロ・ボッカの湯」。泡を探しているので、カメラがブレますのでご注意
※掲載写真は経営者の許可を得て撮影しています。
【お知らせ 『ぶくぶく自噴泉めぐり 改訂新版』 12月上旬発売決定!】
温泉好き3人が全国の「ぶくぶく自噴泉」をめぐり、女将や湯守の話を聞き、写真を撮影し、実際に入浴してみての感想を執筆した書籍。加えて川湯も特集している。こだわりを持って温泉に行きたい人、温泉が好きな人、必読の改訂新版。実際に4年前に出版した自噴泉めぐりの書籍を片手に温泉めぐりをする人が増えています!
○2017年12月上旬発売予定
○山と渓谷社発行
○A5判140ページ
○1600円+税
○2017年12月上旬発売予定
○山と渓谷社発行
○A5判140ページ
○1600円+税
【コラムで紹介した温泉】
●奥那須温泉 大丸温泉旅館(栃木県) http://www.omaru.co.jp/onsen.stm
●鬼首温泉吹上旅館峯雲閣(宮城県)
http://www.hikyou.jp/detail.php?shid=30425
●湯岐温泉「岩風呂」(福島県)
http://yujimata-yamagataya.jp/onsen
●然別峡かんの温泉(北海道)
http://www.kanno-onsen.com/
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。