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鬼首と書いて“おにこうべ”と読む鬼首温泉は、宮城県大崎市に位置します。同じ市内には、こけしが名産品として知られ、20軒以上の温泉宿が営業する鳴子温泉がありますが、同じ温泉郷であっても鬼首温泉は野趣あふれる温泉です。

豪快に吹き上げる鬼首の間欠泉

森の中の一軒宿「吹上旅館峯雲閣」

重厚なロビー。温泉利用の床暖房完備

大きな露天風呂の奥に滝が見える

深さ1m、自然の滝壺野天風呂!

吹上沢大湯滝
●住所:宮城県大崎市鳴子温泉鬼首吹上16
●吹上旅館峯雲閣
●泉質:アルカリ性単純温泉(低張性アルカリ性高温泉)
●源泉温度:73.9度
●pH:8.8
●日帰り入浴:10時~13時
●入浴料金:500円
TEL:0229-86-2243


鬼首…いかにも逸話がありそうな地名だ。調べてみれば、地名の由来は諸説ある。

――平安後期に奥六郡(東北地方太平洋側)を治めていた安倍朝時は、政府が支配していた磐井(現在の平泉など)以南に進出する。それを阻止すべく陸奥太守藤原登任(なりとう)が出向く。その大戦があった古戦場であり、“安倍館”が鬼切部(おにきりべ)館、あるいは鬼城と呼ばれた。時代が経ち、鬼切部がなまって鬼首になった――

上記の説は史実もあり、それなりの説得力がある。しかし、次の昔話が好ましく思えるのはなぜだろう。

――その昔、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ・平安時代の武官)が蝦夷(えぞ)の大将・大竹丸を捕えて斬首にしたときのお話。当時、人々から「鬼」と呼ばれて恐れられていた大竹丸の首は、切られても地には落ちなかった。天空を駆けて海を越え、やがてものすごい形相で岩にかみつき、息絶えたという。その場所が現在の鬼首。大竹丸がかみついた岩も残っていたというが、ダムの建設によってできた荒雄湖の水中に姿を消した――

鬼首温泉は東鳴子温泉、中山平温泉、川渡温泉などを含めて「鳴子温泉郷」の一つに数えられる。鳴子温泉は1000年の歴史を誇り、源義経が兄である源頼朝に追われて平泉に落ちる際に訪れているし、松尾芭蕉も立ち寄っている。

20軒を超える温泉宿を有する鳴子温泉には、名産品であるこけしの絵付け体験ができる施設などもある。加えて「鳴子芸妓組合」が残る。お座敷遊びができる「日本の温泉地」らしい一面ももつ。

鬼首温泉は鳴子温泉からクルマで約20分走った栗駒国定公園内に位置する。有名なのは「弁天」と「雲竜」と名付けられた間欠泉だ。

地下の空洞に地下水が溜まり、火山熱で加熱されて約10分間隔で温水を15m吹き上げるのが「弁天」だ。
「雲竜」は垂直の穴に流れ込んだ地下水が火山熱によって熱せられ、20~30分間隔で噴騰する。

これらの自然の驚異は「鬼首かんけつ泉」で観ることができる(入園料おとな400円)。

間欠泉に隣接しているのが、温泉宿「吹上旅館峯雲閣(ほううんかく)」。
創業昭和20年代。森の中の一軒宿だが、時間限定で日帰り入浴も可能だ。ここには足を延ばしてでも宿泊あるいは立ち寄って、入ってみたい魅力的な露天風呂がある。

部屋数8室という規模には贅沢過ぎる大きな露天風呂が、男女別内湯に隣接されて設置されている。水着は禁止されているが、女性がタオルを巻いて入浴するのもOKなので、安心して森の中の温泉露天風呂を楽しめる。

よく見れば、露天風呂の石垣に小さな洞窟があるのに気付く。かつて、温泉熱を利用して穴の中で麹を作っていたという。

しかし、ほとんどの入浴客は洞窟に気付く前に森の美しさと、その中で音を立てて流れる渓流、そして落差3mの滝に圧倒される。

実はこの滝、温泉なのだ。

滝の上流で約90度の湯が湧き出し、渓流の水と混じって適温となり(冬はやはり寒いですが…)、深さ1mの滝壺へ流れる。滝壺は豪快で野趣たっぷりの天然温泉風呂なのだ。

実は滝壺は温泉宿の所有地ではない。国定公園の森の中にある滝である。峯雲閣の敷地は巨大な露天風呂までなのだ。しかし、段が設けられているので、来訪者は気軽に滝壺へ降りることができる。

滝壺は敷地外であるが、峯雲閣のスタッフが日頃から清掃などを行っている。遠来の客も汚さない、ゴミを残さないなどの節度をもって入浴したいものだ。

峯雲閣のご主人に聞いた話がある。深い緑の中の滝の露天風呂だ。誰もが記念写真を撮影したくなる。インスタ映えもする。「撮りたーい」という気持ちは理解できる。

しかし、いつの間にかマナーもエチケットもなくなったとご主人は嘆くのだ。きっと、他のお客様がいても無遠慮にシャッターを押したり、女性客を狙ったりと、さまざまなトラブルがあったのだろう。

温泉は“はだか”の人がいる場所だ。たいていの温泉や銭湯は撮影禁止が当たり前だ。もちろん、この湯も撮影禁止となっている。
記事に掲載した写真は、以前、筆者が取材に行き、ご主人に許可をいただき、他のお客様が入らない時間まで待って撮影したものだ。

さて、間欠泉が豪快に温泉を吹き上げる地の温泉である。湯量は豊富で峯雲閣のご主人も「測定は不可能です」と笑う。
森の中の川を湯川に変えてしまうだけの湯量、これを純粋に楽しまなければ温泉に来た意味はない。

大きな露天風呂と滝壺の湯を往復してじっくり湯を楽しみ、すぐ前に広がる自然に心癒される。

鳴子温泉も十分に魅力的な温泉地だが、坂を上って辿り着く自然豊かな森の中の温泉もいいものだ。

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東北自動車道古川ICより国道47号を28.5kmで鳴子温泉へ。国道108号で荒雄湖畔公園→県道171号→吹上温泉峯雲閣。古川ICからクルマで約50分
< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。旅雑誌などに連載中。
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