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NHK大河ドラマ「西郷どん」の主人公である西郷隆盛は、狩と温泉好きで知られています。幕末の動乱期に多忙を極めた西郷どんの休日は、薩摩藩内での狩と湯治でした。指宿温泉は西郷どんが愛した湯の一つです。
JR最南端の西大山駅と開聞岳

薩摩半島の知覧の武家屋敷は大河ドラマの撮影のロケ地

熱い砂がかけられると心臓の鼓動が聞こえ始める

「砂楽~さらく~」の砂むし場

絶景を前にした「砂湯里~さゆり~」

ぶくぶく自噴泉の湯船がある村之湯温泉

砂むし会館「砂楽~さらく~」
●住所:鹿児島県指宿市湯の浜5-25-18
●泉質:塩化物泉
●源泉温度:84.7度
●8時30分~12時、13時~21時(曜日による)、1080円(砂むし+温泉)
TEL:0993-23-3900
村之湯温泉
●住所:鹿児島県指宿市大牟礼3-16?2
●泉質:アルカリ性明礬温泉他
●源泉温度:40~63度
●8時~22時、300円
TEL:0993-23-3713


指宿温泉は鹿児島県薩摩半島の南に位置する温泉地。いくつもの源泉があり、その総称として指宿温泉と呼ばれる。

市内の開聞岳(標高924m)は薩摩半島最南端にあり、「日本百名山」に選ばれるシンボル的な山だ。
また、開聞岳を間近に眺めるJR指宿柏崎線の「西大山駅」は、JR最南端の駅。無人駅ではあるが、隣接する商店で「JR日本最南端の駅到着証明」も発行している。
つまり、指宿温泉はそれほど南にあるわけで、周囲の植生などから「東洋のハワイ」といわれて賑わったのもうなずける。

自然湧出の源泉以外にも地面を数メートル掘れば温泉が出るために、大正時代から昭和中期にかけて、温泉熱を農業や製塩に活用し、独特の温泉文化が生まれた。
しかし、温泉を乱用したために、古くからある温泉の枯渇や低温下という問題が生じた時期もある。それでも、新たな温泉源が見つかり、この地では観光利用だけでなく、農業や魚の養殖などにも温泉は使い続けられている。

観光に的を絞れば、昭和30年代のハネムーンブームの時に新婚旅行客が押し寄せた。また、指宿温泉の名物でもある「砂むし」の人気も手伝って、400万人近くの観光客入込総数を、数年にわたり安定的に記録している。

天然砂むし湯の「砂楽(さらく)」がある湯の浜地区には温泉旅館やホテルなどが並び、大勢の観光客を受け入れている。

しかし、筆者が1年前に訪れた時に、指宿駅の周辺の商店街はそれほど活気があるようには見えなかった。ところどころにシャッターが閉じたままの店舗もあった。なにより、人通りが少なかった。観光バスで訪れた観光客は砂むしを体験し、ホテルに泊まり、それだけで指宿を去っていくという塩梅だ。
地元の人が町を盛り上げる策を怠ったわけではない。名物のそら豆を使ったオリジナルスイーツなども商店街の数店舗が作成。このような町をあげての企画も少なくない。

ところが今年、大きな変化が生じている。ご存じ、NHK大河ドラマ「西郷どん」の放送である。

「いぶすき西郷どん館」が1月12日にオープン。狩と温泉好きで知られる西郷隆盛は指宿を何度も訪れている。1階は大河ドラマ館、2階は西郷隆盛と指宿の関わりなどを展示。2019年1月14日までの期間限定開館ではあるが、これによって温泉旅館やホテルに留まることなく、観光客が市内を散策し始めたのだ。

大河ドラマの効果で西郷隆盛が注目を集め、「西郷どんが愛した温泉に行ってみよう」と指宿にでかける人が増えた。そうなれば指宿の魅力は観光客を引きつける。なにしろ、ここには独自の温泉入浴文化があるからだ。

砂むしの歴史は300年にもなるという。ならば、西郷どんも入浴した可能性が強い。
まずは専用の浴衣に着替える。そして、砂むし場に行き、係員の指示に従って砂の上に仰向けに寝る。係員はスコップを使い、体の上に砂をかぶせていく。

砂の温度は50度前後。砂地も熱いから、すぐに体が温まっていく。

これが独特なのだ。けっして「ぽかぽか」ではない。心臓が「ドクン、ドクン」と脈打っていく感覚なのだ。

鹿児島大学の調査によれば、砂むしでは心拍出量が増えて体の深い部分の体温が上がることが確認されている。血液循環が進み、老廃物の排出や炎症性物質の洗い出しの効果があるという。
砂むしの効果は通常の温泉入浴に比べて3~4倍と位置づけられた。

「ドクン、ドクン」は体全体の血が動いている証しなのだった。

砂むしは、指宿温泉の中心地にある「砂楽~さらく~」のほか、開聞岳を望む山川地区にある「砂湯里~さゆり~」で体験できる。

さて、指宿温泉にはレトロな町湯もある。その一つが「村之湯温泉」だ。1863年に自然湧出していた露天温泉を集落の共同温泉にしたのが始まり。
西郷どんが入ったという言い伝えもあり、浴室内の壁には古い西郷隆盛の写真が掲げられていた。

明治14年には本格的に開業した町の温泉だが、ここがただものではない。

外観は少々心許ないのだが、湯船と温泉は屈指。高い天井の内部は、大きく二つに仕切られて男湯と女湯になっている。

浴室には飲泉場もあり、いかに温泉が新鮮であるかがわかる。

男女合わせて4つの湯船は、すべてが地下のトンネルで繋がっているのだ。なぜなら、この浴室そのものが巨大な“温泉池”の上にある。温泉池で湧いた湯が、トンネルで繋がった4つの湯船に自然に湧出されるのだ。

まさに、「ぶくぶく自噴泉」。湯底で湧いた湯がそのまま4つの湯船に湧き出している。加水、加熱、循環していない100%の奇跡の湯だ。

さらに、浴槽内の古い木版には「四季ヲ通シテオ湯加減ニ変リナク毎日三、四回変色スル等特色デス(原文ママ)」とある。pH値を見ても6.5~9.0と幅が広い。ずいぶん不思議な湯でもある。

村之湯温泉には西郷隆盛が入浴したという歴史だけが残るわけではない。悲しい物語もあった。

第二次世界大戦の末期、指宿海軍基地に属する飛行士たちは、この湯で身を清めたという。そして、沖縄に侵攻する敵艦隊に向けて特攻出撃した。
彼らは村之湯で身を清め、開聞岳を眼下にして南へ飛んだのである。

悲しい史実ではあるが、このような歴史があるのも指宿温泉の一面である。

歴史があり、独特の文化がある指宿で、西郷隆盛の時代や悲しい時代を思いながら、のんびり温泉に入っていられる今日の幸せに感謝するのも、悪いことではないだろう。

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< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。旅雑誌などに連載中。
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