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新鮮な野菜をその場で味わえる“農家レストラン”“農家民宿”がこのごろ増えています。生産者の氏名が明記された野菜がスーパーにも出回っていますが、現地に足を運べば生産者と一緒に野菜を味わえるのです!
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ベトナム・ホイアンの農家レストラン
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農家の軒先でレストランを営業
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新鮮な野菜をさまざまな方法で調理(ホイアン)
もう10年ぐらい前になるだろうか。某アウトドアウエアのパンフレット作成の仕事で沖縄の宜野座(きのざ)村の小さな民宿に滞在した。
おばあさんがひとりで切り盛りする民宿をベースに、昼は美しい宜野座の海や川に出て、パドルボードやシーカヤックの撮影を行った。
朝食と夕食はおばあさんの手作り料理だ。ゴーヤやさまざまな野菜、豚肉などを用いた料理が食卓に並んだ。
撮影4日目。この日はあいにくの悪天候で撮影ができず。ぼくは民宿の畳の上で読書をしながらゴロゴロしていた。
すると、おばあさんが「今晩はなにが食べたい?」と聞いてくる。一緒に畑に出て食べたい野菜を選べというのだ。
集落の裏にある広大な畑に行き、いくつかの野菜を選ぶと、それがサラダやチャンプルーになって夕食に出た。新鮮な野菜は格別うまかった。
このおばあさんの畑は小さいながらも、いろいろなものが栽培されていた。日焼けが進んでヒリヒリしだしたタイミングでは、畑のアロエを切って渡してくれ、その樹液をぼくは赤くなった肌に塗った。
帰るときには大量の唐辛子を摘ませてもらい、泡盛に漬けて自家製「島とうがらし」を作った。
今年の3月、ベトナムのホイアンに行った。インターネットで調べると、農家レストランの人気が高い。
ホイアンは海辺の小さな町だから、シーフードレストランもおいしいし、ベトナム料理店、中華料理店も評判がいい。しかし、口コミだと断然郊外の農家レストランの☆印が高いのだ。
ホテルで自転車を借り、30分ほど走って農家レストランに向かった。海と川の州にある広大な畑の中に民家が数軒あり、それぞれが農家レストランを開いていた。
畑を目の前にして食べる野菜料理はどれもとてもおいしかった。デザートには目の前になっているマンゴが運ばれる。
けっしてインテリアが豪華なレストランではない、農家の軒先にこしらえたような、ソファやテーブルがまちまちのレストランだったが、雰囲気、味ともに忘れられない経験になった。
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伊那谷の農家民宿の外観
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いろりに用意された食材の数々
近頃、農家民宿が評判である。
お客さんと一緒に畑の収穫をして、それを調理して提供する。こんな宿がテレビなどでも紹介され始めている。
日本人だけでなく、ネットなどを通じて外国人観光客にも人気となったところも多い。
農家が自分の家と畑を利用して開いているので、リゾートホテルにあるような豪華さや、温泉旅館にあるような広々とした湯船は望めない。
それでも、畑に出て野菜を収穫し、それをいただくのは至福の時間である。とくに、都会暮らしをしている人や、海外からの観光客は、日本の独特な里山風景に魅了され、野菜の育て方に興味をもち、収穫という普段あまりできない体験を楽しむのだ。
先日仲間と訪ねたのは、伊那谷にある農家民宿だった。
建物は古い。しかし、農家民宿を開くに当たって、トイレと浴室は外観を変えずにリニューアル。水場が清潔であれば、不快感は覚えない。
「おじいさんが暮らしていた家なんですよ。いつの日か、農家民宿を開きたいと思い、農業を勉強し、ほかの仕事にも就いて、やっと夢がかないました」と、30歳代の経営者が話す。1日1組限定だから、ひとりで運営ができるのだそうだ。
いろり端で食べる夕食は、畑で育った野菜であり、いろりの遠赤外線を利用して焼いた川魚、イノシシやシカの肉。食べたい食材をいろりで焼いて食べる。
「野菜は畑で収穫したものが中心です。肉類もぼくが調達しました。ぼくは猟師であり漁師なのです。シカやイノシシは自分で撃ってきます。川魚も釣りました」
たぶん、伊那谷の猟師たちは、こんなご飯を食べていたのだと思う。そんな食材が並ぶ。新鮮野菜は抜群にうまい。加えてジビエまで。
それでいて宿泊料は1万円を超えない。
ジビエまで楽しめるのは、この宿の経営者が猟師だからだ。農家民宿の中には野菜中心のところも多い。北茨城の農家民宿は“特区”に認定されており、自家製どぶろくを飲みながら、野菜料理や手打ちそばに舌鼓を打った。地域によっても農家民宿のスタイルは大きく異なる。
いずれにせよ、農家民宿の魅力は、その家のスタイルを客も一緒に楽しむことにある。
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釣られた魚も食卓に並ぶ
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廃校を利用したなめがたファーマーズヴィレッジ
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農家施設で日本の里山に触れよう
猟師の腕は味に出る。獲物を仕留めてから血抜きなどの作業の善し悪しによって臭みが残る場合もある。
伊那谷の農家民宿で食べたイノシシも、シカもまったく臭いがなく、非常においしくいただけた。焼き魚も然りである。もちろん、野菜も抜群にうまい。
山で生きていたものの命と引き替えに味わう肉料理。精魂込めて土を作り、ていねいに栽培された野菜…。
食べているうちに、冒険家であり作家のC.W.ニコルさんの言葉を思い出した。ぼくは30歳のころにC.W.ニコルさんの担当をしており、エッセイ集を4冊出版している。その時に印象に残った言葉だ。
「日本語はすばらしい言語です。その一例は、いただきます、という言葉があることです。西洋の言葉に、いただきますはありません。私たちの口に入ることになった生物や植物、野菜を育ててくれた人たちなどのすべてに感謝する言葉が、“いただきます”なのです」
確かにそうだ、とぼくは感じていた。
農家民宿や農家レストランが評判を呼んでいるのは、作り手の顔が見えるからだ。
近年はスーパーなどに並ぶ野菜にも産地が明記されることが多くなった。道の駅で野菜を買うと、生産者の固有名詞が入っている。ときには顔写真が貼られた野菜もある。
農家民宿や農家レストランでは実際に生産者に会えるし、その人の暮らしぶりもうかがえる。
「いただきます」という感謝の言葉を面と向かって言えるのは、とても素敵なことだ。
農家民宿、農家レストランでなくても、地域のJAが運営する施設も近年充実している。
茨城県行方の「なめがたファーマーズヴィレッジ」は、廃校になった小学校を利用して完成した施設だ。行方市、JAなめがたと民間の会社が手を組んで、農作物を中心にしたレストランや売店を設けた。地域名産の“ほしいも”の魅力を活かした「やきいもファクトリーミュージアム」は当初の予想以上の集客数を誇り、スイートポテト教室での体験講座も人気だ。
これもまたおでかけしたい、農家との“接点施設”といえるだろう。
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●コラムに関連のあるサイトは?
◇農家レストラン、農家民宿
関心のある地域を入れて、農家民宿、農家レストランで検索ください。該当する施設が多くありますので、「なにをしたいか?」で決めるといいいでしょう。
◇なめがたファーマーズヴィレッジ
http://www.namegata-fv.jp/
< PROFILE >
篠遠 泉
休日と旅のプロデューサー。主な出版物に『ぶくぶく自噴泉めぐり』『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがあるほか、『温泉批評』『旅行読売』などに執筆中。観光地の支援活動も行っている。
篠遠 泉
休日と旅のプロデューサー。主な出版物に『ぶくぶく自噴泉めぐり』『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがあるほか、『温泉批評』『旅行読売』などに執筆中。観光地の支援活動も行っている。