ドライブをするたびにどこかで「道の駅」を見かけます。1991年に実験的に始まり、1993年に正式登録された「道の駅」は今や全国で1140カ所を超えました。なかには体験教室や温泉があるところもあって!?
山梨「みのぶ富士川観光センター」。切り絵の森美術館、クラフトパークなどを有する
上記道の駅は広大な公園にカヌー場もある
長野「信州新野千石平」は地域らしい建物が印象的
旅行雑誌の仕事をしているから、月に一度はドライブにでかける。その時に必ず立ち寄るのが「道の駅」だ。
道の駅は各自治体と道路管理者が連携して設置、国土交通省により登録された商業、休憩、地域振興施設である。
ぼくにとって道の駅は、最初のうちはトイレ休憩の場だった。しかし、多くの道の駅に地域の観光案内所があるのを知ると、地域情報を集めるベース基地に昇格した。
インターネットなどでは事前に調べきれない細かな観光スポットを見つけ、特産物を知り、その生産現場への行き方などを調べるのにはもってこいだった。
それからは取材先の道の駅に最初に寄って、そこで情報を仕入れるのが一つのかたちになった。やはり、地元の情報は地元で聞くのがいちばんだ。
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数年前に喜多方ラーメンの店を数軒取材して紹介するという企画があった。そのときに、ぼくは迷わず道の駅に行った。
観光案内所にいた係員に「あなたはどこで食べていますか?」と喜多方ラーメン店について尋ねたのである。すると、他のガイドブックに掲載されていない、いわば有名店ではない名前があっという間に数店あがった。
「もちろん、有名なお店はおいしいですよ。でも、わたしはこちらに行きます」という個人の嗜好が入った答え。それを期待しての質問だった。
超有名店ではない喜多方ラーメン店に行って、食べて、納得して、掲載許可をとる。それは楽しい取材体験になった。
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道の駅は1993年から国土交通省が登録をはじめ、2018年4月の段階で登録数は1145軒を超えた。これはすごい数だと思う。
そして、道の駅の内容もずいぶん変わってきたのを感じる。当初多かった物産品を売り、観光案内所があり、小さな食堂を併設しただけの施設ではなくなった。体験工房もあれば、雄大な公園を有するものもある。
今や、道の駅は通りすがりで立ち寄る場所というより、そこが目的地となりうる施設に進化しているのだ。
道の駅をめぐるドライブに、ぜひ行ってみてほしい。
「田野駅屋」のゆずレモンくずきり
その土地の名産を道の駅で食べたい
フルーツ狩りなどを実施している道の駅もある
テーマパーク化して立ち寄りスポットというよりも、「そこで過ごす場所」に進化している道の駅。さまざまな施設がそれぞれにあるなかで、欠かせない人気スポットは第一に昔も今も物産店だろう。
物産店をのぞくとその地域が見えてくる。
朝摘みの野菜やフルーツが並ぶ。それは、その地域の農産業を垣間見ることになる。
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昨年、岐阜の道の駅「加子母(かしも)」に行った。いつものように物産店をのぞく。
そこにはまわりを圧倒する迫力で、薄い赤い色を帯びたみごとなトマトが並んでいた。それは「加子母トマト」と呼ばれる7月後半からが旬になる地域産夏秋トマトだ。
標高700mの岐阜の山間部で育つトマトは、昼夜の寒暖差が大きいために実が締まる。加えて少しの酸味が特徴。品質のばらつきをなくすために学習会を実施したり、土づくりから行うなど、地元の農家が丹精込めて作ったトマトである。これがうまい。味が深い。
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道の駅の大きな楽しみは、こうした旬の地域の味に出合えることだ。
加工品だってあなどれない。
高知県の道の駅「田野駅屋」にあったゆずレモンくずきりは絶品だった。このエリアはゆずが名産である。実はゆず作りを推奨したのは庄屋の中岡家だったという。その家系には江戸末期に陸援隊隊長となった中岡慎太郎がいる。
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カフェレストランは地域名産を活かしたメニューがずらずら並ぶ。常陸や信州で食べた蕎麦、イチゴの名産地で出てくるイチゴを使ったデザートなども忘れられない。
ただし、「やりすぎだろ」と思った、逸品ならぬ珍品(個人感想)も少なくない。
もっとも印象に残っているのは、四国の香川の道の駅で食べたソフトクリームだ。当時は試作品と言いながら販売していたが、讃岐うどんを入れ込んだソフトクリームだった。
ほんの少しだけ讃岐うどんを練り込んだソフトクリームと、もっとヘビーに讃岐うどんを入れたストロング級があった。
ぼくは後者を選んだ。選んだのだが…。あれはその後、正式な商品になったのだろうか。
瀬戸内海を眺める「一本松展望園」
明石海峡を間近に見る兵庫「あわじ」
棚田を絶好の位置で眺める石川「千枚田ポケットパーク」
体験という面からいっても道の駅は絶好のスポットになった。
埼玉の小川町は和紙の町で知られている。その昔、江戸に幕府が開かれて町が著しい発展をみせたとき、当然のように和紙の需要も高まった。そのときに伝来したのが紀州高野山細川村の紙製造技術だ。
やがて「細川紙」と呼ばれて盛んに作られるのだが、その製造技法は現在、ユネスコの無形文化遺産代表一覧表に記載されるまでになった。
道の駅「おがわまち」の敷地内には埼玉伝統工芸会館があり、そこで和紙づくり体験などもできる。
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このように地域名産品の工作体験などができる道の駅も少なくない。もちろん、体験教室はそれなりの時間が必要なために、ふらっと立ち寄るだけでは足りない。道の駅に体験のために滞在することを前提に、ドライブプランを立てたいものだ。
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物産品が購入できたり、食べられたり、地域に伝わる工芸品などの手作り体験をしたり、今や道の駅は存分に遊べるテーマパークと化した。
道の駅の多くは美景の中にある。それは、自治体と道路の管理者が連携して建てるところにポイントがある。土地の確保も両者の役割であるから、当然、それなりの場所に開かれる。絶景といえるスポットに道の駅があるケースも少なくない。
海の目の前。見晴らしのいい丘の上。景色を眺めるのにふさわしいポイント…。そんな道の駅が多いのだ。
岡山の岡山ブルーラインは非常に走りやすい道だが、その名前に反して案外海が見えるポイントは少ない。瀬戸内を走るのだが、多くは田畑の上を走る。
数少ない瀬戸内海と浮かぶ島々を見下ろすポイントにあるのが「一本松展望園」だ。クルマを駐めて望遠鏡が設置された展望台に行けば、素晴らしい眺望が望める。ちなみに、ここには小さな遊園地が併設されていて、ミニSLなども楽しめるのだが、景色のいい道の駅の代表の一つだろう。
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地元に触れ、景観を心にとどめ、体験に興じる。道の駅めぐりは新しい段階に入っているといえるだろう。今後、どんな道の駅ができるのか。あるいは、古い道の駅がリニューアルによってどう変わるのか。ドライブ好きにとって興味は尽きない。
< PROFILE >
篠遠 泉
休日と旅のプロデューサー。主な出版物に『ぶくぶく自噴泉めぐり』『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがあるほか、『温泉批評』『旅行読売』などに執筆中。観光地の支援活動も行っている。
篠遠 泉
休日と旅のプロデューサー。主な出版物に『ぶくぶく自噴泉めぐり』『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがあるほか、『温泉批評』『旅行読売』などに執筆中。観光地の支援活動も行っている。