江戸時代から今日に至るまで、「こんぴらさん」として親しまれている神社があります。それが香川県にある金刀比羅宮です。江戸時代中期以降、日本全国から多くの旅人がやって来るようになったのには理由がありました。 |
「大門」へ続く石段の両側にはおみやげ店が並んでいます
大門を越えると「五人百姓」といわれる飴を売る人が。宮域での商いが許可された特別なお店です
この言葉は江戸時代に生まれたという説があります。北前船が上方(現在の大阪)から瀬戸内海、九州を抜けて比較的海流の穏やかな日本海を通って北海道へと、津々浦々まで物資を届けたことによってできた言葉だそうです。 さて、大物主神(おおものぬしのかみ)とともに、崇徳(すとく)天皇が金刀比羅宮には祀られています。 大物主神は農業殖産、漁業航海、医薬、技芸などの神徳をもつ神様として人々の厚い信仰を集めていますが、全国的に「こんぴらさん」として親しまれるようになったのは北前船の影響も強いのです。 金刀比羅宮は象のようなかたちをしている象頭山中腹にありますが、その独特のかたちの山は瀬戸内海を航海する人たちのシンボルにもなっていました。 安全な航海のためのガイド的役割をもつ山と、そこにいる航海安全の神様。北前船の船員は金刀比羅宮を参拝し、自分の船に「お札」を貼る習慣が生まれました。 その船が全国津々浦々をまわるわけですから、やがて九州や日本海沿岸、北海道の港の人たちにもその名が知られるようになりました。 まして、船の安全を守るそのご利益は北前船が実証しています。 江戸中期以降、「こんぴらさん参り」が盛んになったのもうなずけます。 |
「御本宮」は階段を785段登った先にあります。海抜は251mで瀬戸内海を望む見晴しは抜群です 大漁旗や船などの海に関する奉納の品が目立ちます 御本宮への階段の途中では巨大なスクリューの奉納品も見つけました。御本宮への階段の両側ではさまざまなものが見つかります
表参道からは約1時間の登り。寒い日であっても額からは汗が流れ落ちます。 652段目を登って鳥居をくぐると「本宮手水舎」が現れ、そこで心身を清めれば残すは1段を下ってからの133段。 登りきれば目の前に「御本宮」が見えます。 奥社まではさらに樹木の中の道を583段登る必要があるのですが、一般参拝者のほとんどは御本宮までで引き返すのが実情。まぁ、その気持ちはわかります。御本宮に着いたときの「達成感」は相当に大きいからです。 高台にある御本宮からは「讃岐富士」と呼ばれている飯野山や瀬戸大橋まで眺められ、通り抜ける風が心地良く…。 御本宮までの785段の階段には売店や重要有形民俗文化財の「備前焼狛犬」「灯明堂」「鼓桜」「こんぴら狛の銅像」「神馬」など、見るべきポイントも多く、階段はつらくても目は楽しめます。 また、資生堂パーラーとコラボレートした「神椿」でランチやカフェ休憩も可能です。 余談ですが金刀比羅宮の宮司さんはなかなかのアイデアマンで、御本宮で分けていただける人気のお守り「幸福の黄色いお守り」はウコンで漬けて色を出したそうです。 |
御本宮からも望める飯野山は「讃岐富士」で知られる讃岐のシンボルです 海の物流の時代から陸の物流へと時代とともに変化。瀬戸大橋はその象徴 東山魁夷せとうち美術館のカフェで絵画鑑賞後にひとやすみ
江戸時代は陸より海を使っての物流が盛んで、瀬戸内海はその大動脈でした。今でも瀬戸内海には多くの船が航海しています。 しかし、昨今では瀬戸大橋などの大型鉄橋が整備され、すっかり陸路が物流の中心になってしまいました。 瀬戸大橋は、まさにその象徴でしょう。 瀬戸大橋は淡いグレーをしています。これは日本画壇の重鎮であった東山魁夷が、生前に「景観を損なわないように」と決めた色。東山魁夷の父方の出身地は香川県、それも瀬戸大橋記念公園から望める島で、その縁から瀬戸大橋着工の際に相談を受けたそうです。 今日では瀬戸大橋記念公園に隣接して「東山魁夷せとうち美術館」がオープンしており、東山魁夷の版画とカフェからは瀬戸大橋などの景観が楽しめます。 海の神様として全国に知られ、江戸時代中期より全国から旅人がめざした金刀比羅宮。幸せになれると評判の黄金色のお守りがある金刀比羅宮。 金刀比羅宮と瀬戸内海を眺めるおでかけは、かつて盛況だった海運文化と現在の自動車文化を知る旅でもあります。 |
●金刀比羅宮
http://www.konpira.or.jp/menu/master/menu.html
●東山魁夷せとうち美術館
http://www.pref.kagawa.lg.jp/higashiyama/
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。