2020年に二度目の東京オリンピック開催が決定し、現在の国立競技場は取り壊され、新たにドーム型の新国立競技場が建築されようとしています。日本の高度成長のシンボルだった国立競技場と、それを見守った鳩森八幡神社をご紹介します。
お気に入りのアプリがあります。
それは『今昔物語』というもので、ワンタッチで現在、明治、江戸時代の地図が出てくるので、散歩のときにとても楽しいのです。
たとえば、私が暮らす木場ですが、現在では海からずいぶん離れています。しかし、明治時代には海はすぐ先になり、江戸時代になると海岸線に位置し、周囲には“木場”の名のままに木材用の水路がめぐる運河の街でした。
さて、2020年東京オリンピックが決定しました。1964年の開催から56年を経ての二度目の開催です。
64年のオリンピックは日本が高度成長していく契機になりました。たとえば、東海道新幹線の開通、国立競技場の完成などがその象徴でしょう。
国立競技場、正式には国立霞ヶ丘競技場で行われた開会式は華やかで、聖火はみごとに灯り、大きく美しい五輪を青空に描いた自衛隊のブルーインパルスチームに感動し、日本の明るい未来を感じた…とは父の言葉です。
国立競技場の場所を「今昔物語」で“明治”にしてみると、「陸軍練兵場」や「葬場殿跡」の文字が出てきます。“江戸”にすると御鉄砲場を囲み、大小の屋敷がずらりと並んでいます。
時代を経てこの地は国立競技場になり、さらに新国立競技場へと移行していくと思うと、東京オリンピックを知らない世代でも感慨があります。
さて、国立競技場からほど近いところに鳩森八幡神社があります。アプリで明治、江戸と遡っても、「八幡宮」と記されているのは一緒。860年に慈覚大師が関東に来た際に、神功皇后、応神天皇の御尊像を作り添えて建立したと伝わります。
高度成長の象徴のほど近くで、時代の移り変わりを見守ってきた神社が「鳩森八幡神社」なのです。
その境内には昭和20年に戦火によって御社殿が焼失したにもかかわらず、厳しい時代も生き抜いた御神木の大銀杏がありました。
青空が広がるある日、白い雲がすーっと降りて来て、不思議に思った村人が森の中に入って行くと、たくさんの白鳩が西に向かって飛んでいきました。そのために、その場所にあった神様が宿る祠のある森を鳩森と名付けたのが名前の由来です。
鳩森八幡神社に行ってみました。
周囲は洒落た低層階のマンションや家並みが続きます。鳩森八幡の交差点のところまで来て、境内に多くの木が残っているのに気づきました。千駄ヶ谷の近くの住宅地に、特別な地として鎮守の森が残されていたのです。
とくに大銀杏がみごとでした。第二次世界大戦の戦火にも残った御神木の大銀杏のほかにも、太陽の光を受けて黄色に変わった葉を輝かせている巨大な銀杏がありました。
その銀杏の下には“富士塚”が残ります。富士塚については、この連載でも何回も触れたので説明は不要でしょう。しかし、これだけきれいに残り、登ることができる富士塚はとても珍しいのです。
富士山の溶岩が山頂付近に使用されており、山麓には冨士浅間神社、山頂には奥宮が奉祀されています。
さらに、自然石の階段、山腹のクマザサ、烏帽子岩、釈迦の割れ石など、寛政元年(1789年)に築造された富士塚は見どころいっぱい。江戸庶民の富士山信仰に応えていました。
境内はそれほど広くはないのですが、富士塚をはじめ、草花や暮らしの道具を中心に描かれた天井絵がある「御社殿」、江戸時代に御鉄砲場が近所にあったことに由来する甲賀稲荷社や能楽殿など見どころの多い神社です。
そのなかでも私の目を引いたのは札所でした。御神札やお守りがあるのですが、鳩が描かれたものが多く、なかなか可愛いデザイン。「鳩みくじ」は鳩の目などが描かれており、折りたたまれて鳩のかたちをしています。
国立競技場のすぐそばに、由緒があり、見どころが多い神社があるのを初めて知りました。
鳩森八幡神社の境内を出て、国立競技場方向に散歩します。
日本の高度成長の象徴だった国立競技場も、間もなくその役目を終えます。その前にもう一度見学したかったのです。
国立競技場に向かう道は、なかなか素敵な散歩道になっています。行列のできるお店も見つけました。
1軒はカキフライなどの洋食が評判の「モダン食堂東京厨房」で、今や東京を中心に店舗増加中です。
もう1軒は「GOOD MORNING CAFE」。こちらもルミネ池袋や中野セントラルパークにオープンしていますが、朝のベーコン&エッグワッフル、ランチのGMC日替わりプレートなどが好評です。
どちらの店舗も、鳩森八幡神社から国立競技場に向かう途中にあり、並んでいる人がいました。お参りの後に、おいしいものが食べられるのはうれしいものですね!
紅葉が美しいこの時期、銀杏や紅葉を眺めながら、のんびり5分ほど歩くと国立競技場に着きました。そこから競技場の南側に沿って歩き、青山門へと向かいます。
青山門に行きたかったのには理由があります。それは、外側からも聖火台が見られるからです。
歩行者天国になっており、レンタルサイクルに乗った子どもたちで大賑わいの日曜日、青山門のまわりにも多くの人がいました。そして、家族連れが楽しそうに遊んでいる様子を、遥か上から聖火台が見下ろしていました。
日本の進化の火を灯した聖火台が、たしかに“そこに”ありました。
鳩森八幡神社から国立競技場へ。江戸の歴史と日本の進化を感じるパワースポットめぐりになりました。
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【クルマおでかけのヒント】
国立競技場横や鳩森八幡神社のそばにコインパーキングがあります。ただし、競技場の解体工事などが始まると、状況が変わることが予想されますので、おでかけはお早めに!
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。