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  3. 秘湯の西の横綱との呼び声も高い霧島連峰山麓の乳白色の湯 鹿児島県・新湯温泉
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霧島連峰南西部には多くの温泉地が点在している。なかでも新湯温泉は、殺菌効果が高く肌のトラブルに効くと評判が高い。その乳白色の混浴露天風呂の人気の陰には、数々の試練を乗り越えてきた、温泉地の苦難の道があった。

新湯温泉 民営国民宿舎霧島新燃荘
所在地:鹿児島県霧島市牧園町高千穂3968
TEL:0995-78-2255
●泉質:単純硫黄泉(硫化水素型)
●源泉温度:62.7度
●湧出量:不明
●pH:5.9
●日帰り入浴:8:00~20:00(第4火曜休)
●日帰り料金:大人500円、小学生300円、幼児200円


新湯温泉の外湯建物。この奥に混浴露天風呂がある


外湯入口。取材の数の多さが人気の高さを物語る


外湯の混浴露天風呂。傍らには持ち帰り温泉を配湯する蛇口もある


宿泊棟内湯の家族湯。天井が高く、入り心地がいい

霧島連峰は鹿児島と宮崎の県境に位置する火山群の総称で、固有の霧島山というものは存在しない。
最高峰は標高1700mの韓国岳(からくにだけ)だが、その南東にある第二峰の高千穂峰(たかちほのみね・1573m)のほうが歴史的にも有名だ。

記紀に記された天孫降臨神話の地として、ニニギノミコトが舞い降りたことになっている。
山頂の岩の間には天逆鉾(あまのさかほこ)が突き立てられており、幕末には坂本竜馬が妻お龍と新婚旅行に訪れた際、この天逆鉾を引き抜いたというエピソードもある。

韓国岳より高千穂峰のほうが脚光を浴びたのは、宮崎県の都城盆地から直接その山容を眺められ、庶民に馴染み深かったからとされる。
山頂から雲海を眺めると、連峰の尾根が霧の中に浮かぶ姿が島のように見えたことから、霧島と呼ばれるようになったと伝えられている。

霧島連峰一帯には古くから温泉が数多く点在しており、なかでも南西部に集中している。

今回訪れた温泉もそのひとつ。
標高920mに位置する新湯温泉、「民営国民宿舎 霧島新燃荘」が目的地だ。
すぐ北側には、直径630m、周囲約2㎞の、ほぼ円形の火口湖である大浪池がある。
ぽっかりと口を開けた湖は、約4万年前に形成された噴火口に水が溜まってできたものだ。

この地に湧く温泉は、明治初期より皮膚病に効くとして存在が知られ、かつては皮膚疾患専門の湯治場として利用されたこともあった。

現在の経営者の祖先が湯治小屋として温泉を入手したのは昭和26年(1951)になる。
しかしそれは一方で、苦難の道のりのはじまりだった。

昭和29年(1954)8月、台風5号が接近し、降り続く雨の影響で土石流が発生。
約6万立方㎡にもおよぶ土砂が、宿を埋め尽くした。
建物は全壊し、もちろん温泉も消えてしまった。

それから再び温泉の泉源を求めて採掘に取りかかるまでには、丸3年の年月が必要だった。

執念とも思える困難な作業の末、昭和34年(1959)12月、ようやく泉源を掘り当てる。
それがいまの新湯温泉に当たる。

昭和47年(1972)に霧島新燃荘が開業。
当時はマイカーの普及による旅行ブームが到来し、民営国民宿舎の指定を受けたことは、営業上大きなメリットとなったことだろう。

だが、霧島連峰の火山活動は現在も続いており、火山性の温泉であることが、思いもよらぬ事態をもたらす。

平成元年(1988)3月、温泉中に含まれる硫化水素ガスの中毒事故が発生。
これを機に、自噴する浴槽への入浴や温泉施設の気密性を見直すこととなった。

50m以上の深さから、約98度の水蒸気が噴出している。
6つある泉源をいったん造成槽にまとめて硫化水素ガスを揮発させ、それから各浴槽に引湯する方法に改めた。

それでも、自然の威力には抗うことはできない。
平成23年(2011)には新燃岳の噴火の影響で、休業を余儀なくされる。
翌24年(2012)7月25日にようやく営業を再開した。

宿は山の斜面を背にした川沿いにあり、内湯のある宿泊棟と、別棟の外湯に分かれている。
外湯の入口には、手書きの注意書きのほかに、マスコミ各社が取り上げた記事がたくさん掲示されている。

こうした数々の苦難があるにもかかわらず、来場者は次々にやってくる。
それは“秘湯の西の横綱”と呼ばれるほど、独特な泉質によるものだ。

新湯温泉は単純硫黄泉(硫化水素型)で殺菌効果があり、それでいて酸性度もそれほど高くはない。アトピーや乾燥肌、水虫などの肌のトラブルに効果があるとされている。
白濁していて、なめるとややすっぱい。
肌に身につけた銅や真珠は、必ずはずしてから湯に入りたい。そうしなければ、銅などはすぐに黒くなってしまう。金でも14金などは変色してしまうので、アクセサリーはつけないほうが無難だ。

外湯の中央には混浴露天風呂があり、それを取り囲むように男女別の浴槽とふたつの温泉治療室とがある。
宿泊棟の内湯には、男女別の風呂とふたつの家族湯。
いずれも泉質に違いはないが、内湯の壁面は湯が伝っている部分だけ湯の花がびっしりとこびりついている。

外湯から内湯へと浴槽のハシゴをしながら、外湯入口の看板に、“1回の入浴は30分以内”とあったことを思い出した。
酸性泉は刺激が強いので、長い入浴には向かない。
長風呂したくなるほどいい湯だが、本来は湯治で長逗留向きの温泉なのだ。

玉子臭のする乳白色の湯は、湯気を浴びただけでも温泉気分にひたれる。
いかにも温泉情緒のある野趣あふれる露天風呂の雰囲気が、温泉番付で高い評価を得る理由なのだろう。

あわただしい取材旅行のさなか、火山国日本を象徴する温泉の出現にうれしくなった。そしてその一方で、困難に遭いながらも、この湯を守り通そうと情熱を注いだ宿の経営者がいたことが、深い印象となって記憶に残った。


九州自動車道・えびのICから県道30号でえびの高原を経由し、県道1号を大浪池方面へ。約26㎞、50分。
鹿児島空港からは国道504号から県道56号、国道223号で霧島温泉方面へ。約28㎞、45分。

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< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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