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間もなくやってくる田植えシーズン。農業体験は全国各地で行われているが、田植えをして稲刈りをするという、年に二度楽しめるお米作り体験が評判だ。日本の主食だったお米を見直すためにも、お米作りを勉強してみよう。
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総務省家計調査によると、1990年は世帯あたりのお米の支出が6万2554円で、パンは2万6122円だったそうだ。
それから約20年たって2011年になると、お米は2万7780円と激減し、パンの2万8368円に抜かれてしまう。家計において、お米は約3万5000円弱も減ってしまうのだ。
とはいえ、パンがものすごく増えたかといえば、そうでもない。
自分の食生活を振り返ってみても、この数年はパスタ類やうどん、ラーメンなどを食べる割合が高くなった。“麺食い野郎”なんて、つまらない冗談を言っているほどである。
海外に取材や旅行で行くと、日本人は幸せだなぁとよく思う。それは海外文化を受け入れる日本人ならではの柔軟性があるのかもしれないが、和食、イタリアン、フレンチ、中華、ラーメン、うどんと、実に食生活が多様なのだ。
あるとき、パリのレストランにいたご夫婦と話した経験がある。
「いつもこんなに贅沢な料理を楽しんでいるの?」と尋ねたぼくに、
「ワインも楽しみたいし、おいしいお料理も食べたいから、週に二度はレストランにでかけるわ」と、ご夫人が言う。
それに対してご主人は、「でもね、毎日がそうじゃない。ほかの日はパンと簡単なお料理がほとんどだよ。パンが主食であるのは家でも外でも変わらない」と話してくれた。
日本人は、ご飯が続いたので飽きた、麺類ばかりでうんざりなどと、口にする。しかし、ほかの国の人の主食は毎日変わらない。その点、日本人は幸せだと思うのだ。
ただし、こんな豊かな食生活になったのは1980年代の高度成長期からだと思う。まさにバブルのころだ。街にフレンチやイタリアン、高級中華店が続々と開店して以来ではないだろうか。
そして、お米は「日本の主食でござる」と、胸を張れない食材になっていったのだ。
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日本全国を旅していると、北海道でも四国でも、九州でも田んぼのある風景に出合う。
はるか遠くの山を背景に、どこまでも広がる田んぼ。海を見下ろす斜面に石垣を築いて完成した棚田。
水が目立つ田植え時、緑が美しい夏、黄色く染まる秋、雪が積もって静まりかえる冬と、田んぼの色彩は目を楽しませる。
ぼくはもう何年も取材で旅をして、全国の田んぼを見ていた。確かに美しい。しかし、それは当たり前の光景だった。
だから、イギリス人の自然風景写真家ジョニー・ハイマスが『たんぼ』『おこめ』という写真集を出版したときは、感動したと同時にある意味、大きなショックを感じた。
田んぼは写真集の題材として、とてもふさわしい存在だったのだ。外国人は純粋にそれを認め、ぼくたちは“当たり前”と放っておいた。
しかし近年、お米の消費量低下とともに、その美しい風景がなくなりつつある。
リタイアした後に田舎暮らしを始めた人たちの取材で地方に行っても、「休耕田」ばかりが目につく。
以上の事柄は過去の連載でも触れたが、それほどに田んぼが失われていく風景は寂しいものだ。
日本人の食生活の変化は否定できない現実だし、それによってお米の需要が少なくなり、結果として日本の原風景が変わりゆくのは仕方のない出来事だ。
だから田植え体験をしてお米を食べようと短絡的に訴えるつもりもない。
しかし、7世紀には「年貢」という制度が日本に設けられ、お米を主に納めていたという歴史がある。お米は確実に日本を動かしていたのだ。だからこそ、お米を身近に感じる体験はよい機会だと思う。
近年では農業体験やお米作り体験は全国で盛んに行われている。今年、それに参加して田んぼのある風景の美しさと、お米作り体験を楽しんでほしい。
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「農業体験」をネットで検索すると、78万件以上がヒットする時代になった。なかには旅行代理店がツアーとして運営しており(この連載でも紹介)、農村地帯に定期的に都会人を送り出しているケースもある。
今回、ぼくが推奨したいのは、春も秋も楽しめる田植えと稲刈りがセットになったお米作り体験だ。
たとえば、滋賀県にある「体験交流型農業公園 アグリパーク竜王」では、5月の連休中に田植えを行い、9月に稲刈り体験をする。ランチにはおにぎり+豚汁(田植え時)、新米のおにぎり+サトイモ汁がつくというからテンションもあがる。参加費は田植え、稲刈り合わせて3500円を予定しており、大人には新米2㎏がプレゼントされるのだ。
こんな1年で二度楽しめるお米作り体験、調べると全国各地で行われている。自宅に近い場所を検索し、二度楽しめるお米作りを探してほしい。
大人の田植え体験として楽しみなのは、酒造が主催するものだ。
一例だが、昨年は栃木県益子の酒造、外池酒造店が田植え体験とバーベキュー大会を開催している。
これは外池酒造店の代表酒『燦爛』に用いる酒米を、蔵人と参加者で植えるイベントで、ドライバーでない限り振る舞い酒に舌鼓も可能。バーベキューや民謡演奏会なども行われるというものだ。
毎年5月に開催されているので、今年も注目したい。
5月に酒米を植えて、新酒のシーズンに二度目のお楽しみ。これはなかなかのものだ。
また、稲作オーナー制度を設けている体験農場もある。これは区画で契約し、田植え、稲作、稲刈りをできる範囲で行い(もちろん、プロが監修、行けないときの面倒も見てくれる)、収穫した新米を持ち帰るといった制度だ。
お米作りを体験して、お米に親しむ。お米をおいしく食べる。日本の主食だったお米をよく知るいい機会になるだろう。
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。