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日本は火山が多い国だけに温泉の宝庫でもあります。温泉の恩恵をさまざまなかたちで受ける土地の人々は、温泉神社などを建立して祀ってきました。そして現在では、それが縁結びへと進化したところもあるようで…。


長野県・野沢温泉の麻釜では地元の人が温泉で野菜を湯がいていました


福島県・芦ノ牧温泉の「湯泉神社」と書かれた鳥居横には足湯があり、観光客を癒します

日本各地を取材していると、さまざまなところで温泉神社と出合います。

温泉は古来より“湯の神”とされており、たとえばキズを癒す、子宝に恵まれるなどの恩恵や言い伝えがありましたから、当然それを祀る風習もありました。

延長5年(927年)に発行された全国の神社一覧『延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)』にも、温泉神社が3社、温泉石神社、湯神社、御湯神社、玉作湯神社が各1社記載されていますので、そのころからすでに温泉を祀る神社は各地にあったことがわかります。

たとえば、歴史ある温泉地にはそれにちなんだ神社があります。

福島県いわき湯本温泉、栃木県塩原温泉郷、鬼怒川温泉、和歌山県南紀白浜温泉、大分県別府鉄輪温泉、長崎県雲仙温泉などには温泉神社があります。

宮城県鳴子温泉に温泉石神社。岡山県湯原温泉に湯本神社、島根県玉造温泉に玉作湯神社、愛媛県道後温泉に湯神社があります。

また、近年では各地に小さな温泉神社を見ることができます。

多くの外湯や麻釜で知られる信州・野沢温泉にもさまざまな神社が見られます。

野沢温泉村の人々は温泉を入浴に利用するだけでなく、江戸時代より源泉を利用して麻の皮をむいたり、野沢菜や野菜などを洗ったり、さまざまなことに温泉を利用していました。温泉を利用した共同の洗濯場は雪深い土地の人々をどれだけ助けたでしょうか。

そして、野沢温泉村には「温泉薬師堂」や「湯沢神社」をはじめ熊がキズを癒していたために命名された「熊の手洗い湯」のそばには「熊薬師堂」があります。

さらに、「えんま堂」、「湯殿山碑」などの温泉にちなんだと思われる多くの神社やお堂があり、それも村の観光資源となっています。


静岡・熱川温泉のバナナワニ園のワニは温泉利用のあったか水でぬくぬく


熱川温泉のお湯かけ弁財天横の源泉からは湯気が立ち昇り、熱湯が出ていました


猛烈な湯気に包まれたお湯かけ弁財天に観光客が立ち寄りお金を清めたり、お湯をかけたり…

先日、静岡県伊豆の熱川温泉に行ってきました。

「あ、あのバナナとワニのところね」と応える方も多いと思います。そう、熱川温泉最大の観光スポットは「熱川バナナワニ園」。今から50年以上前に開園、現在では17種のワニやバナナをはじめとするマンゴー、パパイヤなどの熱帯植物が観察でき、レッサーパンダやゾウガメにも出合えます。

園内のレストランでいただく、マンゴーの盛り合わせや南国フルーツを活かしたパインボートも名物として知られています。

ここもまた温泉の恩恵を受けており、熱川の豊富な温泉を利用して熱帯に生きる動植物に最適な環境を整えているのです。

さて、伊豆熱川駅の山側に広がるのが熱川バナナワニ園であるのに対し、海岸線へと続く緩い坂道の両側が温泉街になっています。

ホテル、お土産店や飲食店、懐かしいスマートボールのお店などが点在しています。

その一角に「お湯かけ弁財天」がありました。

土地の所有者が夢のお告げによって温泉を掘り当てたことに感謝して設立した「お湯かけ弁財天」です。

お湯をかけながら願いごとをすれば、その願いが叶うと伝えられています。

このコーナーで以前に鎌倉の銭洗弁財天を取り上げましたが、ここにも小さなカゴがあり、訪れる人はカゴの中に小銭を入れて洗っていました。
さらに、縁結びの小さな絵馬も…。

いつの間にか温泉街の中の小さな弁天さまは、開運、金運、そして恋愛運にご利益がある存在になっていました。

恩恵を受けた人たちが温泉の神を祀るために建立した温泉神社。そして現在では観光客に人気のスポットとなって、それも土地の人々に貢献しているのでした。


お湯かけ弁財天の敷地内の木には数多くの恋愛成就絵馬がかかっていました


地球パワーの賜物である温泉でお金を清めたり、タマゴを茹でたりできます


目の前に海が広がり、沖に伊豆大島、式根島、新島などが眺められる高磯の湯

熱川温泉の「お湯かけ弁財天」。このコラムを読んだだけでは、商業的なにわか観光地っぽく感じる方もいるでしょう。

しかし、現地に行くと噴き出している湯気に圧倒されます。地球の鼓動さえ感じることができます。

そのパワーに導かれて散策ついでに立ち寄る人がほとんどなのも事実です。

そして、とても直には触れられないほどの熱湯で小銭を洗う。それは温泉地の弁財天ならではの“儀式”に感じられます。

鎌倉の弁財天が清水なら、こちらは地中からあふれ出す、力強さに満ちた熱い湯…。温泉地ならではのパワースポットとして成立しているのです。

熱川温泉にはそのほかにも心身ともに癒してくれる温泉パワーによってできた施設があります。

ひとつは「温泉足湯 流れる温泉 あそべる広場熱川ほっとぱあーく」で、海岸沿いにある足湯公園です。パンツの裾を膝までまくりあげて、足をつける。なんとも気持ちのよい施設です。

凸凹歩道も設置されています。体内に問題を抱えていると足裏のツボが刺激されて痛いとのことですが、わたしの場合はもう、痛くて痛くて…。

もうひとつの「高磯の湯」は海岸沿いの大露天風呂です。目の前はすぐに海。沖には伊豆の島々が眺められます。

解放感は格別で、まさに温泉の恩恵を最大限に受けられるスポットになっています。

みなさんも熱川温泉や野沢温泉、そのほかの温泉地に行ったときに、温泉にまつわる神社を探してみてください。そこには温泉起源や夢のお告げなどのおもしろいエピソードが隠れているかもしれません。


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●野沢温泉観光協会
http://nozawakanko.jp/

●熱川温泉観光協会
http://www.atagawa.net/
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
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