このごろカメラ店を覗くと「話題のミラーレスカメラ」という掲示ボードが多いのに気づきます。コンパクトデジタルカメラの大きさでありながら、一眼レフカメラのようにレンズを付け替えて被写体を狙う楽しみがある。その魅力、体験してみました。
ソチでの冬季オリンピックが終わって間もなく、写真展の招待状が届いた。
僕がスポーツ雑誌の編集をしていたときに知り合った、スポーツカメラマンとして名を馳せる人からの、ソチで撮影した写真で構成される個展の案内だった。
通常、写真展の初日はギャラリー閉館後にカメラマン主催のパーティーが催される。このときも同様、カメラマン仲間や編集仲間、カメラメーカー関係者が集まって和やかなパーティーとなったのだが、話題の中心は写真だけでなく、それを撮影した機材に及んだ。
通常、スポーツ写真は大きな一眼レフカメラに、全長30cmもあるどっしりと重い望遠レンズを装着して撮影するものだ。しかし、飾られた写真のほとんどが、コンパクトで軽量なミラーレスカメラで撮影されたものだった。
上村愛子をはじめとする白い世界のアスリートをみごとにとらえた写真の数々。これを目にしたとき、ミラーレスカメラの認識が一変した。
そもそも、一眼レフデジタルカメラとミラーレス一眼の違いは、「光学式ファインダー」があるかないかだ。
簡単にいえば光学式ファインダーは撮影のときに範囲を定めたり、ピントを合わせるために使用する装置。そのために、一眼レフカメラではファインダー越しに見た光景がそのまま撮影できるという利点がある。
また、ほとんどの一眼レフカメラはレンズ交換できるために、被写体に応じて超広角レンズから超望遠レンズまでを使い分けるのも可能。プロカメラマンが取材に行くとき、4本ほどのレンズを常備するというのも珍しくない。
さらに一眼レフカメラをメーカーは“最高峰”としている傾向が強く、機能面の進化も凄まじい。画像の最大サイズがコンパクトカメラ、ミラーレスカメラより通常大きく、連写速度も速いのが一般的な特徴といえるだろう。
撮影設定が思いのままに操作でき、シャッターラグがほとんどないからシャッターを押した瞬間に撮影でき、ファインダーで覗いたものがそのまま撮影できる一眼レフデジカメ。一瞬を逃したくないプロカメラマンにとって最大の武器だといっていい。
ただし、その大きさと重さが僕にとっては問題だったのだ。
スマートフォンのカメラ機能やコンパクトカメラも著しく進化し、通常の写真なら問題ないどころか、素敵な写真が撮影できる時代になった。
それでも、取材で使えるかというとそうもいかない。
僕は旅の仕事が多いから、広大な風景写真や建物の外観、温泉施設、グルメなどの写真を撮影する機会が多い。
レンズでいえば望遠レンズより広角レンズが必要となるわけだ。
しかし、通常のスマートフォンやコンパクトデジカメでは広角度合が足りない。とくに室内や温泉施設の端っこが切れてしまうのだ。仕方なく後ろに下がって撮影しようと思っても、壁があって下がれない。結果、中途半端な写真になってしまう。
そのために、僕もプロカメラマンのように、一眼レフカメラにレンズを3本ほど持って取材にでかける羽目になる。
これがつらい。カメラバッグは10kg近くになるし、そのほかに着替えなどを持つわけだから、移動は想像以上に重労働なのだ。
加えて近年は航空会社の重量制限が厳しくなっている。以前なら見逃してくれた重い機内持ち込み荷物や、預ける荷物の重量オーバーは厳しくチェックされる。重量オーバーで追加料金を請求されるケースも珍しくない。
地中海クルーズ取材にでかけたときは、カメラバッグのほかに20kgほどの荷物(ジャケットや革靴を複数持っていたんです)があったから、航空会社のチェックインカウンターで相当なピンチに陥った。
そこに現れたのがミラーレス一眼カメラである。
一眼レフカメラから光学式ファインダーを除き、レンズから入った光はセンサーを通じて液晶画面などに再現している形式のカメラだ。それによって軽量小型化に成功した。
さらに、レンズ交換が可能な種類が多いので広角から望遠まで、コンパクトデジタルカメラより対応幅が広がった。
もちろん、多彩な撮影モードをはじめとするデジタルカメラならではの機能も豊富。
これなら10kg前後のカメラバッグを持ち歩く必要もなく、重量制限に怯えることもない。
僕にとって理想のカメラの出現だった。
カメラ量販店を覗いてみると、「話題のミラーレス一眼」などと掲示されたボードが賑やかだ。入口近くの中央部に、各社のミラーレスが飾られているのだからお客さまの反応もよいのだろう。
その次に一眼レフカメラが目立つ場所に並び、一時は大量に置かれていたコンパクトデジカメのコーナーが小さくなった感がある。
たぶん、コンパクトデジカメはスマートフォンのカメラで代用できるという側面があるのだろう。
これまで携帯電話の付属カメラやコンパクトデジカメを使用していた方は、まずは遠慮なくミラーレス一眼のレンズ交換を体験してほしい。レンズを変えるだけで変わる世界観を体感してほしいのだ。
数年前まで一眼レフカメラの特権だった、レンズ交換のおもしろさがきっと実感できるだろう。また、一般ユーザーを対象にしているだけに、機能説明がわかりやすい点も見逃せない。
その次に一眼レフカメラを操作してみる。仕様を吟味すればミラーレス一眼より優位なのは理解できるが、それほどの性能が必要なのかどうか。また、実際に手にすればその重さに驚くはず。
実例をあげれば僕が手に入れたミラーレス一眼は電池、SDカードを含めてボディ重量が203g、35mm換算で23~69mm相当のズームレンズを付けても総重量は299gでしかない。300gを切るのだ!
一方、僕が実際に使用してきた一眼レフのボディ重量が約820gで、これにバッテリーパックを装着すれば1㎏を超える。さらに、レンズ重量を加えるのだから、どっしり感は半端ない。そのあたりもカメラ量販店などで体感してほしい。
お気に入りのミラーレス一眼を見つけたら、自分が撮りたい写真を想定し、レンズをセレクトする。そして、実際にさまざまなシチュエーションでレンズ交換やモード変換を楽しみながら写真撮影を体験していく。
これまでの携帯電話付属カメラやコンパクトデジカメとは異なる世界が撮影できること間違いなし。
ドライブや旅、家族との時間がこれまでよりずっと楽しくなるだろう。上手な写真の撮影方法は、越カメラマンのアドバイスを参考に!
ところで…。取材先に小さなミラーレス一眼を持っていき、和風旅館の女将を撮影するときに、先方はどんな反応をするのだろう。取材慣れしている女将なら、黒くて大きなカメラを予想しているはずだ。それなのに、小さなカメラを取り出したら…。
ミラーレス一眼の当面の課題は“対人問題”になりそうだ。
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。