熊野三山より祭神の勧請を受けた「熊野神社」は全国に3000を超えます。そのなかで新宿十二社熊野神社は2011年のワールドカップで優勝した“なでしこジャパン”の守り神になりました。この夏開催される女子サッカーワールドカップでもご利益はあるのでしょうか!?
昨年はブラジルで男子サッカーのワールドカップがありました。
ご承知のとおりザッケローニ率いる日本代表は予選リーグを突破することなく、長友 佑都の涙に象徴される無念さを現地に残し、帰国の途につきました。
遡ること4年、2011年に女子サッカーのワールドカップがドイツで開催されました。参加国は16カ国。結果は優勝日本、準優勝アメリカ合衆国、3位スウェーデンとなり、最優秀選手も得点王も澤穂希が獲得しました。
この大会で日本はポット1に属する4カ国のひとつでした。ポット1とはシード国ですから、予選リーグの組み合わせでも有利だし、サポーターも期待して大会を迎えることになります。
しかし、優勝までの道程は楽ではありませんでした。
予選リーグはイングランドに次ぐ2位で通過。澤のハットトリックでメキシコに勝利するなど、すでに2勝していたので3戦目のイングランド戦を調整に利用した点も考えられます。
また、2位になったために世界一の実力を認められていたアメリカ合衆国と決勝まで対戦しないという幸運に恵まれました。
それでも、準々決勝のドイツ戦は延長に突入、108分に丸山桂里奈があげたゴールにより1-0でなんとか勝利します。
準決勝はスウェーデン。前半に先制されるものの川澄奈穂美のゴールで追いつき、後半に澤、川澄のゴールで引き離して3-1で勝利。
そして、決勝の相手はアメリカ合衆国。後半を終えて1-1、延長で先に失点するものの澤の奇跡的なゴールで追いつき、PK戦の末に勝利しています。
歓喜の表彰台を鮮明に覚えていますが、彼女たちが持っていたのが新宿十二社熊野神社の勝ち守りだったのは案外知られていません。
「出発前に新宿のホテルに泊まった彼女たちが散歩のついでに寄り、何人かの選手が買われて行きました」、社務所の方が教えてくれました。
源義経に従って最終的に現在の中野坂上から西新宿一帯に暮らすことになった鈴木九郎が、熊野三山より十二所権現をうつし祀ったのが起源とされているのが新宿十二社熊野神社です。別説もありますが、それは応永年間(1394~1428年)のことでした。
鈴木家は紀州藤代で熊野三山の祠官をつとめた家柄。中野に移り住み、熊野神社を創建した後は家運が上昇し、「中野長者」と呼ばれるほどの資産家になったそうです。
また、この神社の周囲の変遷も見逃せません。
慶長11年(1606年)に田畑の用水溜として大小の池が作られました。雑木林だった土地が池と田畑に変ったのです。
享保年間(1716~1735年)になると、池の周囲には多数の茶屋ができて、池のある景勝地として賑わうようになりました。
このころ、鷹狩のときに第8代将軍徳川吉宗も神社にお参りしています。
新宿という土地柄でしょうか、明治時代以降はますます栄え、池の淵には大きな料亭ができて花柳界として評判を呼びました。
当時の写真を見ると池に船を浮かべて遊ぶ人々や、花火を見上げる旦那衆と芸妓さんが写っています。
100軒を超える料亭・茶屋があったといいますから、雰囲気は異なっても新宿歌舞伎町のような賑わいだったのでしょう。
今はバス停に「十二社池の下」と名を残すだけで、昭和43年に埋め立てられた池の面影はありません。
神社も新宿の高層ビル群の先、新宿中央公園の一画にこぢんまりと建っています。
繁華街は山手線の内側になってしまいました。商業ビル、マンションが並ぶこの地に、池があったことや300人を超える芸妓さんがいたのを覚えている人は少ないでしょう。
アジアカップでは準々決勝でUAEに敗れて敗退。その後にアギーレ監督が契約解除となるなど、2015年早々から暗いニュースが続くサッカー界ではありますが、日本サッカー協会のシンボルが八咫烏(やたがらす)です。
日本代表戦を観戦に行くと、カラッペとカララという八咫烏をモチーフにしたマスコットがいるので、目にした人も多いのではないでしょうか。
八咫烏は大きなカラスであり、3本の脚を持つことでも知られています。日本へサッカーを紹介した功労者である中村覚之助氏が和歌山県の那智の出身だから、熊野三山に所縁がある八咫烏をシンボルにしたという説が強いようです。
※バックナンバー:世界遺産の神秘的な場所【和歌山・熊野三山】
(http://www.smart-acs.com/magazine/13040101/experience001.php)
本宮大社の境内にも八咫烏の像がありましたが、そもそも八咫烏は神武天皇を熊野国から大和国に案内するために遣わされたという説があります。
また、八咫烏は太陽の化神であり、神武天皇を戦で助けたという伝説も残ります。
つまり、世界と戦うサッカーチームのシンボルとしても相応しい存在だったのです。
八咫烏のお守りをもってワールドカップに参加し、優勝トロフィーを掲げた女子チーム。
今年の6月からカナダで開催される女子サッカーワールドカップ。参加国は16から24に増えました。日本はポット1(シードチーム)で、予選リーググループCに所属。同じグループにはスイス、カメルーン、エクアドルがいます。
八咫烏のパワーでぜひ上位に食い込んでもらいたいものです。
常磐二郎
海岸沿いのドライブとお酒が大好物のWEB・雑誌編集4年目の中堅編集者。
好きな高速道路は、東名高速道路と海老名SA。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。