越カメラマンのアドバイスは「風景写真に人を入れるコツ」です。人を主人公にするのではなく、人を入れることで一段と風景が生きるコツを伝授します。そのほかにも写真コンテスト情報や壁紙プレゼントなど、カメラが趣味の人も、そうでない人も楽しめる内容でお届けします。
今回は今までの連載とは少し趣を変えて、“人を入れた風景”の狙い方を紹介してみたいと思います。
「人」と言っても「人」が主役の写真ではなく、人を点景として加えると風景がもっと引き立って見える、そんな場面について解説します。
人はとても“強い”被写体です。人を入れるだけで、写真の主従関係が逆転しかねません。つまり、風景が主体ではなく人が主体になってしまいやすいということです。
人を点景として加える場合に大切なのは、あくまで風景が主体であって、人を主張しすぎないことです(人物主体の撮り方については、いずれ紹介したいと思います)。
そのあたりを念頭に置きつつ、見ていってもらえればと思います。
牧場の片隅に置かれたベンチのある風景を撮りました。
小さな子どもが写っていない写真Aに対し、子どもが写っている写真B。
この写真にタイトルを付けるとしたら、写真Bのほうが色々と思い浮かんで来ませんか?
日が暮れてきて、牧場へ遊びに来ていた子どもが家へと帰ろうとしている……。タイトル的には「帰り道」といった感でしょうか。
みなさんが考えたタイトルはそれぞれ違うと思いますが、このように「人」が点景として加わっただけで写真の雰囲気が変わり、風景が引き立つことはお分かりいただけたと思います。
小さな島で、海を見下ろす道をスナップした写真です。
写真を撮っていると、ちょうどそこを自転車に乗った人が下っていきました。これが入ったことで、この道が海に向かって下っている雰囲気を強調することができました。
単に坂道を撮っただけでは「下っていく」という部分を表現するのは難しいものですが、後ろ姿の人を入れたことでその雰囲気を盛り込めました。
ちなみに、同じ場面で正面向きの人を撮ったのであれば、恐らく上り道とういう雰囲気になっていたはずです。
今回アドバイスしているのは、風景を引き立たせるために人を点景として入れるということ。つまり人物を大きめに撮ると、周囲の様子が分からないばかりか、スケール感が伝わってきません。
まずは周囲の情景を優先して考え、そこにどのくらいの大きさで人を入れるか吟味するといいでしょう。人物が大き過ぎると、説明的な写真になってしまいます。
写真E、写真Fはその例です。
川岸の段々畑を一生懸命耕す農夫を撮ったものですが、アップ目の写真Eは農作業の様子はよく表現できていますが、この一帯の風土(ゆったりと流れる川の岸辺に段々畑が広がっている)までは表現できていません。
ときには引いてみることも必要という好例です。
沈下橋を渡る女子学生を撮影した写真です。
写真Gと写真Hの違いは、背景に空を入れたか入れていないかです。
背景に空を入れた写真Hは、初夏らしい爽やかな雰囲気と、この川の谷の深さ(スケール)が盛り込まれています。
個人的にタイトルを付けるとすると、写真Gは「通学路」くらい、写真Hなら「あの夏の思い出」です。写真Hのほうが、この女子学生たちが過ごしてきた土地の様子まで伝わってくると思います。
写真I、写真Jはカヌーで川下りをする人がいる雄大な川を狙っています。
画面全体に対しカヌーをやや大きめに写した写真Iと、少し小さめに狙いかつ背景の山並みを奥のほうまで入れた写真J。
バランスを変えたことで、全体のスケール感が変わってしまい、写真Iではこの川の雄大さが失われてしまっています。
この連載では、どちらかといえば“撮りたい部分を絞る”ことが多かったと思いますが、今回は逆に引いてみることを紹介してみました。いかがでしたか?
今回見てきたように、人を点景として入れるだけで、平凡だった風景の印象はガラリと変わります。
それだけに周囲の風景をいかに入れて、点景である人とのバランスをどう取っていくのか。そんなことを考えてみると、写真を撮る楽しさがまたひとつ増えるのではないでしょうか。
こし のぶゆき
1968年神奈川県生まれ。カメラ専門誌や旅雑誌の撮影・取材を行なう傍ら、「メルヘンステーション」をテーマに全国の駅を撮影し、雑誌などに作品を発表している。公益社団法人日本写真家協会会員、日本旅行写真家協会理事。
『かおり風景100選』は環境省が選定した、香りが楽しめる風景を全国から選んだものです。
たとえば北海道・富良野のラベンダー畑、秋田県・小坂の小坂町明治百年通りのアカシア、愛媛県の愛媛西宇和の温州みかんなどの植物のかおりから、埼玉県・川越の菓子屋横丁、群馬県・草津の草津温泉「湯畑」の湯けむりなど、甘いかおりも温泉らしい硫黄臭も選ばれています。
それらは多くの人が訪れる観光スポットでもあります。人をうまくファインダーに入れ込んで、越カメラマンのアドバイスにある「風景をより際立たせる人の取り入れ方」を実践してみましょう。
きっと、これまでと違った風景写真がものにできるはずです。
●かおり風景100選
http://www-gis2.nies.go.jp/kaori/
http://olive-life.org/report/olivephotocontest/
風景写真は瀬戸内海の小豆島、豊島、直島と多少限定されますが、オリーヴを題材にした写真コンテストです。
瀬戸内海に浮かぶ3島のオリーヴと、オリーヴ商品のある風景・生活がテーマ。
コンテストで選ばれた写真は2016年の小豆島ヘルシーランドのカレンダーに掲載され、その制作部数は3万部ですから、多くの家庭の1室を飾ることになります。
募集締切:2015年8月31日(月)
賞 品:最優秀賞/賞金5万円(1名)
副賞/賞金1万円(11名)
編集部が取材ででかけて撮影したたくさんの写真の中から、壁紙向きの写真をプレゼントします。お気に召されたら、壁紙などにお使いください。
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筆者はハワイのガイドブックを通算三度制作しており、ときどきハワイに取材がてら出かけています。今年も3月末に8日間ほどワイキキに滞在しました。前号に引き続き、散策のときに気軽に撮影した写真をお届けします。
構成と写真
岩崎幸則
東京都生まれ。雑誌編集などを経てカメラ&ライターになる。現在は旅行雑誌、企業会報誌などに執筆。プロレス観戦が趣味。