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  3. 7種類の湯が楽しめる山の湯治宿温泉街 岩手県・夏油温泉
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山荘のような本館脇の小路を入ると、湯治棟や売店が建ち並び、あたかも温泉街のような風情を漂わせている。広大な敷地には7種類の湯が湧いていて、3人の湯守が温泉を管理。ここは渓谷沿いに湧く、天然の露天風呂群だ。


入畑ダムの夏油大橋から焼石岳方面を望む。山懐の深い大自然が広がる

夏油温泉 元湯夏油
所在地:岩手県北上市和賀町岩﨑新田1-22
TEL:090-5834-5151
●泉質(大湯):ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
●源泉温度:39.4度
●湧出量:不明
●pH:6.6
●日帰り入浴:大人600円(中学生以上)、子ども300円(3歳~小学生)/消費税・入湯税別/10:00~15:00(受付14:00まで)



元湯夏油本館。入口右手の小路を入ると宿泊棟が建ち並ぶ


大湯。壁に掲げられた昭和62年の温泉分析書には泉温59.8度、泉質ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉とあるが、平成17年版では泉温47.9度、泉質ナトリウム・カルシウム-塩化物泉とあり、温泉は生き物であることを感じさせる


疝気の湯。山肌からの湧出のほか、湯底のふたの脇からあぶくとともに湯が湧き出る


小天狗の湯の御影石の床は、温泉成分が波状に固まって棚田のような景色をつくっていた

冬季には営業しておらず、春から秋だけしか行けない温泉宿がある。

今回紹介する夏油(げとう)温泉もそのひとつ。
5月初旬から11月中旬までの営業で、今年は5月13日から客の受け入れが始まった。

東北自動車道から秋田自動車道へと分かれ、北上西ICで下りる。
県道37号線を南下。東北の田園風景を眺めながら、信号のない田舎道をひた走る。
約10分程度、8㎞ほど走ると県道122号線と合流。標識にしたがって右折して122号線を西へ向かう。

瀬峯坂温泉、水神温泉、瀬美温泉、入畑温泉。
夏油川沿いのクルマでわずか5分ほどの距離を走っている間に、日帰り湯や温泉の一軒宿がちらほらと見える。
このあたりは温泉銀座なのだ。

トンネルを抜けると、右手に突如、ダム湖が現れた。
入畑ダム。
大きなダムを渡るように夏油大橋が架かっている。
雄大な光景に見とれて、しばしクルマを停めて写真を撮った。

陸奥の国の山奥深く。この先は夏油温泉へ続く林道になり、途中で行き止まりになる。温泉に向かうための一本道だ。
このあたりは栗駒国定公園で、焼石岳(1548m)や牛形山(1340m)などからの雪解け水が夏油川に注ぎ込む。
人が住むには厳しい環境で、ブナの原生林がありのままの姿で残っている貴重な場所だ。
クルマ1台分の林道を走り、北上西ICから約40分でようやく夏油温泉に到着した。

山懐に、いくつかの山荘が寄り添うように建っている。
中央に「元湯夏油」の看板を掲げた本館入口があった。

明治19年刊行の『日本鉱泉誌』(内務省衛生局編纂)には、同じ地域の温泉で瀬目鑛泉の名だけが記載されている。こちらは本村高橋嘉吉により寛政5年(1793)8月に発見。
一方、宿のホームページには「昭和5年の内務省衛生試験場の報告書は慈覚大師発見説をとり、『本温泉の発見は遠く文徳天皇の斉衡3年(西暦856年)』と記しています」とある。
宿のご主人の話では、敷地内の薬師神社には樹齢650年以上といわれる杉のご神木があり、この神社の創建は650年~700年前にはさかのぼることができるという。
また夏油山中の駒ケ岳、五百羅漢、仏石、お坪の松にも慈覚大師(圓仁・794~864)にまつわる伝説が残っている。
温泉が湧くところに薬師如来が祀られることはよくあり、それを考慮すると江戸時代になってからというのは若すぎ、斉衡3年説にも一定の根拠があるように思えてくる。

本館のフロントで受付を済ませ、本館脇の小路を入ると、左右に売店や旅館が連なり温泉街に来たような気分になる。
この宿には旅館部と自炊部があり、それぞれ4館、計8館の建物が並んでいるのだ。
そのほかに、経営の異なる2つの旅館もある。

露天風呂から内湯まで、この宿には7種類の湯がある。
すべての湯が源泉かけ流しで、場所によって泉質が微妙に異なるため、効能も微妙に違う。書き出してみよう。

1.大湯: 神経痛、リウマチ、皮膚病
2.滝の湯: 皮膚病、外傷
3.疝気の湯: 婦人病、痔
4.真湯: 胃腸病、ぜんそく、虚弱体質
5.女(目)の湯: 眼疾患
6.白猿の湯: 痛風、高血圧、神経痛
7.小天狗の湯: リウマチ、高血圧

男女別の内風呂「白猿の湯」「小天狗の湯」以外は、すべて夏油川沿いに点々と並んでいる。
女性専用の「滝の湯」を除いてすべて混浴。女性時間をつくることでまんべんなく入浴できるような配慮もなされている。

夏油温泉が素晴らしいのは、なんといっても川沿いに湧く湯に、大きな手を加えていないことにある。
しかも、そのうち「大湯」「疝気の湯」「女(目)の湯」の3つの浴槽が、湯船の側面や底から直接湧出している“ぶくぶく自噴泉”なのだ。

最上流に位置する「大湯」は山肌と川に挟まれた場所にある大きな半露天風呂。
源泉温度47.9度とあるが、けっこう熱い。
よほど湯量が豊富なのだろう。湯は山肌の岩の割れ目全体から染み出しているようだ。
色が全体に緑がかっていて、ナトリウム成分が強く、肌を刺すようなピリピリ感がある。

そこからやや下った場所にあるのが「疝気の湯」。おとな5人ほどが入れる小さめ の浴槽だが、川が目の前まで迫っていて自然との一体感が楽しめる。
湯底はセメントだが、中央にある抑え蓋の合間から、ときおりぼこっと大きな泡が上がってくる。

「女(目)の湯」は川を渡った対岸にある露天風呂。泉質もナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉と他と若干異なる。無色透明だが、やや硫化水素臭がある。

ひとつの温泉宿でこれだけの種類の泉質があるのは珍しい。しかも夏油川のせせらぎを聞きながら自然に身をゆだねていると、体に溜まったあらゆる毒素が洗われていくようだ。

湯上りに宿泊棟の温泉街を歩くと、売店の軒先でつい休憩したくなる。
肌はさっぱりさわやか。汗がすっと引いてじつに気持ちがいい。

昼からビールを飲んで、しばし休憩しようか。
湯治宿として長逗留するなら、この宿を候補の筆頭に挙げてしまいたくなる。
新緑から紅葉まで、木々が色づくシーズンだけ楽しめる、いとおしくなる温泉だ。


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最寄りのいずれのICからも、最終的には県道122号線に入り一本道となる。秋田自動車道・北上西ICより35分。東北自動車道・北上金ヶ崎ICより約40分。東北自動車道・北上江釣子ICより約45分。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
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