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海に行きたい!と思う季節になりました。きれいな空、押し寄せる波、海は眺めるだけでいいものですね。しかし、その下には見知らぬ世界が広がっています。今回は“海潜り体験”のすすめです。水中グラスを準備して、暑い季節の海にでかけてみませんか?






学生の頃、1週間の講習の後に実技試験を受けて「水上安全法救助員」の資格を手に入れたことがある。

とっくに更新手続きをしていないから、現在ではどんな方法で認定されるのかを知らない。ただ、当時と変わらない厳しい訓練が待っているのだろうと推測している。

なにしろ救助員は、溺れている人を救い、岸にあげ、適切な処置を施さなくてはならない。人命救助の知識とそれなりの水泳技術を持ち合わせていなければならないのは、当時も今も変わらないと思うのだ。

当時は人工呼吸法を習い、30分におよぶ立ち泳ぎを平然とこなし、顔を水面に出して目標物を確認したままそれなりの速度で泳ぎ、溺れた人を片手で抱えてプールサイドまで運ぶ練習をした。

講習のひとつに「順下(じゅんか)」という技術があった。

ある程度の高さから飛び込み、着水と同時に両足、両手を操作して顔をいっさい沈めないというものだ。救助においては、岸から飛び込んでも溺れている人を見失わないというメリットがある。これを3mの飛び込み台から行った。

練習のときは、ドボン!と、ほとんど頭まで沈んでしまい、講師に絶望的な苦笑いを向けられることの連続だった。

しかし、試験のときだけ違った。3mから飛び込んでも奇跡的に顔が水上に浮かんだままだったのである。

こうしてぼくは無事に救助員に認定された。

実は救助員を取得したのには理由があった。救助員を持っていたほうがプール監視員のバイト代が高かったのだ。さらに、海の教室などの合宿の講師代も普通の学生より割高だった。

そんなわけで、房総半島で開催された海の合宿に呼ばれ、小中学生や外国人留学生の海の交流会の講師のバイトに精を出していた。

房総の海の岩場にはバテイラと呼ばれる貝がいた。これを獲って民宿に持っていくと、漁業権をもっている宿でおいしく調理し、夕食に出してくれる。

バテイラが食べたいのと、生徒たちが海を覗く経験になるという一石二鳥。房総の海では生徒を引き連れて海にずいぶん潜った。

小さな魚も見える。素潜りでバテイラを泳ぎがうまい生徒と獲り、なかなか充実したひとときを過ごしていた。

絶好調の時、ぼくの目の前にウツボが顔を出した。

それ以来、なんとなく海潜りが怖くなった。







ウツボに遭遇して気の小さなぼくはかなりビビった。社会人になってプール監視員や海合宿のバイトから離れたこともあり、いつしか海に潜る機会はなくなっていた。

それから数年、熱帯地方へ旅行や取材にでかけるようになり、旅先で再びスノーケリングや素潜りに興じる機会を得た。内心はサメやウツボ、ウミヘビの存在に怯えているのだが、それよりも美しい彩りのかわいい魚たちやサンゴ礁に魅了された。

たとえば、沖縄、ハワイ、グアム、プーケット、フィジー、ケアンズ…。それらの海は熱帯魚が棲息する極上の海だった。しばしば海ガメにも遭遇した。

フロリダから船で行ったバハマの海では、北海道札幌の「純連」のラーメンを思い出した。

海中に潜ると海面ギリギリに銀色の小魚が群れをなして輝く層を築き、それが油が表面に浮く純連のスープを連想させたのだ。

海中の世界はいつまで見ていても飽きない(とはいえ、三半規管が少々弱いぼくは、長いこと波に揺られて浮いていると気分が悪くなる)。どんな魚に遭遇するのか、ワクワク感を抱きながら覗く世界は素晴らしいものだった。

こういった光景は南の世界でしか味わえないと思っていた。ところが、取材で訪れた九州、四国、三重県などでも熱帯魚と呼べる色鮮やかな小魚が岩場に棲んでいるのを知った。
注意深くイソギンチャクを見ると、そこにクマノミが発見できるのである。

近年、地球温暖化という由々しき問題があり、異常気象に加えて、北極や南極の氷を融かし、将来的に地球にさまざまな問題をもたらすのが確実視されている。

たとえば植物の生態を見ても、江戸時代には生えていなかった熱帯の植物が、東京の植物園に自生するまでになった。

海の世界に目を向けても深海の魚が浅瀬で、熱帯の魚が北部で見つかるケースが増えている。

明治維新以降解禁となったサンゴ漁は四国の室戸地方、鹿児島や長崎をはじめ伊豆諸島、小笠原諸島で盛んに行われていた。

サンゴは水温18~30度くらいが適しており、日本は北限にあたるため沖縄から九州、四国、本州と北に進むほど種類数は減少する。それでも、太平洋側は千葉・館山、日本海側は石川・金沢周辺で棲息が確認されている。

今後、温暖化に伴って海中温度が上がれば、もっと北でも確認される可能性があるだろう。

地球温暖化は人類が真剣に取り組まないといけない問題だが、それによって東の海でも熱帯地方のような魚が海中で見られるかもしれなくなったのは事実だ。


砂浜の海で熱帯魚に遭遇するのはマレだ。しかし、遊泳可能な磯などでは熱帯魚に遭遇するかもしれない。

飛行機で行く沖縄ではなくても、九州や四国、紀伊半島、あるいは伊豆や房総の海に行くときは、クルマに水中グラスと防水カメラを携帯したいものだ。

「おでかけマガジン」のアウトドアの欄で防水カメラを前回取り上げたが、4月に取材ででかけたハワイのハナウマ湾で試してみた。

もちろん、火口が変化したハナウマ湾はサンゴ礁があり、その取り組みによって魚がきちんと保護される世界有数の素潜りスポットだ。

ぼくは防水カメラを片手に海に潜り、魚を追ってみた。使用したのはおでかけマガジン編集室の愛用カメラのひとつ、オリンパス・タフシリーズだ。

動画に関しては普段ほとんど撮らないし、まして海中で使ったことはなかった。ド素人ながら、それでも海中で魚を追うことに成功した(たぶんにハナウマ湾のすばらしい環境のおかげだが…)。

みなさんに公開するには未熟で恥ずかしいが、それでもぼくが魅了された理由はわかっていただけると思う。






いよいよ本格的に暑くなる。今年は日本の海で海中撮影に挑戦しようと目論んでいる。

かつて、東京近海でも熱帯魚の仲間と思われる美しい魚を何度か目撃している。紀伊半島以西だったらなおさらだ。

日本の海を海中から見直してみよう。そこはどんな世界なのか、昔と現在でどんな変化があったのか、透明度はどうなのか…。

潜らないとわからない世界がきっとあるに違いない。


「おでかけマガジン」より、みなさまへ読者プレゼント実施中!

●こんなニュースも
「地球温暖化の影響? 千葉の海でクマノミやサンゴ」
【日経電子版】
http://style.nikkei.com/article/DGXNASFK1701K_X10C14A7000000

●熱帯魚を見つけたら
「熱帯魚と海の生きもの図鑑」(かぎけんWEB)
http://www.kagiken.co.jp/new/db_tropical-fish.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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