滝に行くとなぜか神聖な気持ちになります。水を持つ星の尊さ、地球の息吹を感じるからです。しかも、マイナスイオンに溢れていて、口に含む空気がおいしい! 滝は大自然のパワーが満ちた場所です。晩秋の滝におでかけしてみませんか?
ナイアガラ・アメリカ滝を間近に見ました
ナイアガラでのミニクルーズでビショビショに
ナイアガラの滝、高さはそれほどではありません。それでも、その迫力に圧倒されます。
エリー湖からオンタリオ湖に流れるナイアガラ川に位置し、カナダ滝とアメリカ滝のふたつがあります。
カナダ滝の落差は56m、幅675m。アメリカ滝は高さ58m、幅330m。日光の華厳の滝の高さが97mですから、半分ほどの高さになります。しかし、幅の広い滝の水量はすさまじく、ピークシーズンで毎秒5720㎡にもなります。
これだけの水量です。ナイアガラは水の力によって浸食され続けています。
地質学者などによれば、約1万年前の氷河期に誕生したときは、現在よりも11km下流に滝はあったとされています。水の力によって、上流へ上流へと滝は移動しているのです。
現在では浸食を最小限に防ぐ工事をすませ、さらに上流の可動堰によって水量の調整も行われています。
それでも、毎年3cmほど岩が削られて滝が移動しているのですから、水の力に驚かされます。
ナイアガラの滝に取材で行ってきました。ブドウ畑が広がり、ワイナリーが点在する長閑なカナダ側の集落を抜け、川沿いの道を走って行くと、やがて高層ホテル群が見えてきます。
18世紀には観光地として知られ、世界中から訪問客を集めるナイアガラの滝はホテル群のすぐ前にありました。
日本の滝とは比較にならない水量を誇るだけに、ものすごい水しぶきがあがり、そこに虹がかかっています。
何隻かの遊覧船もあり、それに搭乗すれば滝壺の手前まで行くことが可能です。
搭乗口でもらったレインコートを着込み、私もさっそく滝壺までのミニクルーズを楽しむことにしました。幅の広いカナダ滝のすぐ横を通り、アメリカ滝へと船は進みます。
莫大なる水量による轟音が船まで響きます。水しぶきが容赦なく降りかかります。
観光客たちはケータイのカメラをセットして、写真撮影に熱中していますが、「防水なのかしら」と、少々心配になるほどの水しぶき! 私は防水カメラ持参でしたので、気兼ねなしにパシャパシャ写真撮影を決行しました。
それにしても…。ここは想像を絶する地球パワーに溢れた場所でした。水のある星に生まれたことに素直に感謝する、そんなクルーズになりました。
蔵王エコーラインの滝見台から見た滝
岩肌をやさしく落ちる紀伊半島の十二滝
観光名所として人気の白糸の滝
日本各地を取材し、旅していますが、日本ではナイアガラほどの迫力ある滝にお目にかかっていません。
しかし、日本には日本画に描かれるような、美しく、それでいて“繊細”な滝がたくさんあります。
溪谷や森の中の道路を進んでいると、「滝見台」などの案内版が出てきて、そこにクルマを停めれば、まるで東山魁夷の日本画に出てくるような細く、美しい滝に出合えます。
たとえば、蔵王エコーラインでのこと。宮城側から御釜をめざして登って行くと、やがて「滝見台展望台」に出ます。
クルマを停めてものの1分も歩けば、谷越しに「三階の滝」が見えてきます。距離がありますから、滝は対岸の森の中に小さくしか見えません。しかし、手つかずの森の中にある三段の滝は、ジブリ映画『もののけ姫』の背景のように清らかです。
熊野古道を取材した時も同様でした。世界遺産に登録されている熊野古道は秘湯の宝庫でもあります。
湯の峰温泉の「つぼ湯」は湯船の底から湯が湧く自噴泉。熊野詣での湯垢離場として、世界遺産にも登録された貴重な温泉です。
熊野本宮大社などの熊野三山をお参りした後に、立ち寄るのに最適なのが紀伊半島のほぼ中央にある秘湯・十津川温泉です。
熊野本宮大社から十津川温泉に向かって、山間を通る国道168号を走っていると、やがて左手に「十二滝」が現れます。
こちらもまたナイアガラとは対極にある滝の代表といえるでしょう。
落差は約90mでナイアガラの滝のほぼ倍。それでいて、水量は多くありません。森が生んだ水を、そっと落とすような静かな滝です。
水は岩肌を伝い、降りてきます。そこに、なんともいえない風情を感じるのです。
昭和11年に国の名勝および天然記念物に指定された静岡県富士宮市の「白糸の滝」も、いかにも日本らしい風情ある滝です。
幅150mの湾曲した絶壁に、何本もの白い糸が垂れているように、水が流れています。その水のほとんどは、富士山の湧水です。
こちらも迫力あるナイアガラとは正反対の“やさしい滝”の代表といえそうです。女性たちに人気が高く、日本の滝百選で人気ランキングの常連であるのがうなずけます。
さまざまな滝に出合えるのも、日本ならではのおでかけの楽しさです。マイナスイオンたっぷりの自然のパワースポットは、各地でそれぞれの表情を見せています。
払沢の滝の4段目の滝
滝の裏側にまわれる月待の滝
華厳の滝、伊豆の常連の滝、前述した白糸の滝など、すでに全国に知られる有名な滝も数多くある半面、それほど知られていない名瀑も数多くあります。
私が訪れた首都圏に近い滝でおすすめなのは東京都の「払沢の滝」と、茨城県の「月待の滝」です。
払沢の滝は五日市からクルマを走らせた檜原の森の中にあります。
林道の奥にある滝は日本の滝百選にも選ばれています。合計4段ある滝の落差は60mになり、最下段の滝の落差は26mです。
林道から撮影しやすいのは最下段の滝で、そこから眺めるだけでは4段もあるとは想像できません。
4段の滝によってできた滝壺には大蛇が棲むという伝説が残ります。東京都内にあるとは信じられないほど、神秘的な雰囲気をもった滝です。
「月待の滝」は茨城県大子町にあります。大子町といえば「袋田の滝」が有名で、大きな駐車スペースが用意されていることもあり、観光バスが続々やってきます。
冬季に凍結する可能性が高い袋田の滝は、年間通じての一大人気観光スポットになっています。
でも、マイカーでおでかけするのなら、月待の滝に行ってほしいと思う私です。
月待の滝は通常二筋の夫婦滝ですが、雨が多い時期には子滝ができて三筋の滝(親子滝)になります。
この形状から安産、子育て、開運を願って“二十三夜講(二十三夜の月の出を待って婦女子が祈願に集まるところ)”の場とされたために、「月待の滝」と名付けられました。
まさに、滝そのものが昔からの地域のパワースポットだったのです。
この滝は裏側から見物ができる珍しい滝です。そのために「裏見の滝」「くぐり滝」という別名もあります。
滝は“生きている”地球の息吹とパワーを感じられる場所です。秋から晩秋にかけて、滝は色鮮やかな森に包まれます。さまざまな落ち葉が滝壺のまわりを彩ります。
ぜひ、訪れてみてください。
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。