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日本各地に“おいしい工場見学”ができる施設があります。銘菓を作っている工場に隣接して直営店を設置し、ガラス越しに工場見学ルートを設けているからです。さらに、お菓子作り体験ができる施設も少なくありません!

旧役場を工場に再生させた東京ラスク伊豆ファクトリー


パンに溶かしバターを塗ってグラニュー糖をかける


鉄板の上にていねいに置きオーブンへ


しばしばこのコラムに学生時代の思い出を書いているが、僕が幼稚園から大学まで通っていたのは東京の自由学園という学校だ。

女性として初の新聞記者になった羽仁もと子が『家庭之友(後の婦人之友)』を明治36年に創刊。引き続き明治37年に『家計簿』を創案、『主婦日記』、『子供之友』、『新少女』などを創刊し、家庭と教育について斬新なアイデアを発表していく。

大正10年にそれらの実践の場として自由学園を創立。彼女が48歳の時だった。

以来、自由学園は少人数制の一貫教育の学校として今に至っている。堅いことはヌキにして、「さまざまな世界で役立つ人間になってほしい」という基盤の中での学生生活は楽しかった。

学校や寮生活の基本は生徒による自治。さらに、豚や鶏の飼育なども生徒が行い、時には寮の食事にトンカツなどになって提供される。ちなみに寮で使う机とイス、本箱は中学入学を機に自分たちで作ったものだ。

那須の農場で農産物の栽培と酪農を行い、三重の尾鷲と飯能の奥地に植林地があった。もちろん、生徒たちもしばしばでかけて牛の世話や苗植え・枝おろし作業を行う。

中学3年時は腕時計を分解して組み立て直した。その時計は、今でもコチコチと動いている。健康のために朝いちばんに上半身裸で学園内を2周走る(けっこう距離がある)。それこそ、机の上以外の勉強が盛りだくさんだった。

こういった学生行事の中に“見学”があった。2月の入学試験期間中に、生徒主導によって社会科見学を実行するのだ。

中学1年のときは東芝の工場に行った。そして、高校3年の時。通常なら高校3年生に見合ったところに行く。たとえば、東京大学宇宙航空研究所やつくばの科学施設などが相応しい。

だが、ぼくらのクラスはそうしなかった。「近いから早く終わる」という理由で、近所にあるコカ・コーラ多摩工場(東久留米市)に見学を申し込んだ。

担任は何も言わない。「?」とは思うだろうが、社会科見学をしているのだ、内容に文句を言うような野暮はしない。

余談だが、この校風があるからこそ、講師も自由に教育活動を行い、後の米村でんじろう先生(自由学園の講師でした)のような人物を生む。

今振り返っても、高校3年生が1時間で終わる工場を見て、おみやげに飲料をもらう見学でよかったのかと思う。それでも、「おいしい工場見学」は楽しかったのを覚えている。

いや、正直なところ、早々と終えて東久留米駅のそばの喫茶店で仲間とたむろしていたのが楽しかったのかもしれないが…。

ラスクのできあがり。特にでき立てはおいしい!


1日500万枚のえびせんべいを焼くえびせんべいの里


基本のペーストを使ってせんべい作り体験


社会に出て仕事に追われると“おいしい見学”はほとんどしなくなった。若い頃はスキー雑誌の編集部にいたから、最先端のスキーウエア工場や、職人技が光るスキー工場に取材に行ったが、お菓子や飲料の工場は縁遠くなった。

しかし、この頃、縁遠かったはずのそういう工場に行く機会が増えた。

僕には温泉めぐりやハイキングをする仲間がいて、秘湯とハイキングを組み合わせたツアーを年に1~2回ほど決行している。

その会に子どもや孫がついてくるケースが増えたのだ。

南アルプス山麓のキャンプ場に行き、低山ハイキングを楽しんだ時だった。山歩きを終えても元気満々の子どもたちの要望によって、キャンプ場からクルマで10分ほどのシャトレーゼの白州工場に行った。

本当なら同じ白州にあるサントリーの工場に行き、ウィスキーやビールの試飲がしたい。しかし、子どもたちの圧倒的なパワーによってシャトレーゼに行く羽目になった。

行ってみれば、これが楽しいのだ。次々に完成するお菓子を眺めているだけで、なんだかウキウキしてくる。

たとえばグリム作の『ヘンゼルとグレーテル』、ジョニー・デップが出演して話題になった映画『チャーリーとチョコレート工場』は、映像でお菓子の家や工場を見るだけでウキウキしてくる。同じ感覚だ。ただし、このふたつのお話は、本質的な部分で無邪気に楽しめない要素が多分に混じっているが…。

この夏に行ったのは東京ラスクの工場だ。

できたてのラスクがベルトコンベアーの上を流れてくる様子は、いつまでも見飽きない。

この工場に手作り体験コーナーがある。小さく刻まれたパンに溶かしたバターをかけてかき混ぜ、グラニュー糖をかける。それを鉄板の上にくっつかないように並べ、20分ほどオーブンで焼けばお手製ラスクのできあがりだ。

工場見学&体験を実施している東京ラスク伊豆ファクトリーは旧天城湯ヶ島町役場を利用しており、2階に会議室などが残っている。その1室にある卓球台で遊びながら、僕らは焼き上がるのを待った。

大きな焼き器で大判せんべいを作る


醤油とソースで仕上りの色と味が微妙に異なる


穴が開いてしまったのは愛嬌ということで…


愛知県の知多半島は、名古屋から南へ伸びる細長い半島だ。

半島の真ん中に関西国際空港に次いで日本2番目の海上国際空港・中部国際空港セントレアや、瀬戸焼、越前焼と並び日本六古窯(朝鮮から連れてきた陶芸職人によって始まった有田焼などよりはるかに歴史がある)のひとつである常滑焼の産地がある。

知多半島の名物といえば魚介類だろう。東に知多湾、西に伊勢湾があるだけに海の幸が豊富で、とくに海老が特産品。

かつて、はさみ状になった用具の先につけた円盤で、1枚ずつ焼いていたのが、銘菓として人気が高いえびせんべいだ。本当の海老を使用しているために、噛めばほんのり海老の香りが広がる。パリパリっとした歯ごたえも絶品。食べ出したら止まらない。

えびせんべいの里は昭和23年の創業以来(創業当時は白藤商店)えびせんべいを作り続けている老舗菓子店。現在6店舗を有するが、製品は知多半島の真ん中の美浜町にある工場で作られている。代表的なえびせんべいは、じゃがいもでんぷんと、ゴマ、海老、イカなどを混ぜて作ったペーストが素になる。

美浜にある美浜本店は工場に隣接する店舗で、50種にもおよぶえびせんべいなどと、工場見学、そしてえびせんべい作り体験が可能だ。

ペーストを丸くし、専用の焼き器で伸ばして素焼き(?)し、そこに醤油やソースで絵を描く。そして、再び本焼きをすればできあがり。

ショッピングだけでなく、300円で体験ができて、「自分で焼きました」と大きくプリントされた大型ビニール袋に入れて持ち帰れるのだから、このお菓子作り体験も人気がある。ちなみに、おまけとして証拠の記念写真ももらえるのだ。

ちなみに雑なのか、僕はえびせんべい作りに失敗した。ぽっかりと大きな穴が開いてしまったのである。ま、それも記念だが。



最近、急にお菓子工場に行く機会が増え、体験まで行った。それが、いい歳をしてとても楽しいのだからファミリーで訪れたら、お子さんはさぞ喜ぶに違いない。

愉快で“おいしい”工場見学とお菓子作り体験。ぜひ、おでかけしてみませんか?


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●コラムに関連する工場見学
□コカ・コーラ工場見学
http://www.ccej.co.jp/campaign/
□シャトレーゼ工場見学
https://www.chateraise.co.jp/enjoy/02factory.php
□東京ラスク伊豆ファクトリー
https://www.tokyorusk.co.jp/user_data/izu_factory.php
□えびせんべいの里 美浜本店
http://www.ebisato.co.jp/shop/mihama.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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