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東照宮といえば「日光の社寺」として世界遺産に登録されている日光東照宮を思い浮かべる人が多いのでは。実は東照宮は北海道から長崎県まで徳川家にゆかりの深い土地にあります。なかでも上野の山の上野東照宮は黄金の殿と牡丹園が有名です。

鳥居をくぐって上野東照宮へ


旧寛永寺の五重塔はすぐ横


鎌倉でも京都でも、浅草でも。外国人観光客を迎えようという政策もあり、近ごろは神社やお寺で外国人を見かけることが多くなりました。

外国人観光客向けのガイドブックやウェブサイトにも、「神社参拝の方法」などが記されていますので、神聖な場所である神社を訪れる外国人観光客は、それなりの知識を得ているケースがほとんどです。私の見る限り、慣れてはいなくても、作法を守ろうとする姿勢が感じられます。

先日、上野公園に行ってきました。東京観光の目玉のひとつが上野公園です。上野駅を降りた時から、外国人観光客の姿が目に付きます。

かつてはお花見の季節でもない限り、動物園、美術館、博物館が目当ての人がほとんどで、公園内の遊歩道はそこに向かう人が歩いているといった様相でした。

しかし、現在は違います。公園内に大きなスターバックスもでき、大道芸を披露する人も多く、公園散策が目的の人が増えています。

上野公園をのんびり散歩している女性外国人観光客を見つけました。

「上野公園はどうですか?」と、話しかけてみると、「きれいな公園ね。思ったより人が多いけれど」と、フランス・マルセイユから来た32歳のミシェルが言いました。彼女はひとりで東京を旅しているそうです。

「上野公園に来た目的は、公園を散歩するのと、もうひとつあるの。黄金の社殿を見たいと思ってね」とミシェルが笑います。「黄金の社殿!?」…インターネットでさまざまな情報が飛び交う世の中です。

「戦争でも、大地震があっても残ったのでしょ。きっと、幸運の建物なのよ。その幸運を分けてもらわないと…」とミシェルが続けました。

そうだったんだ! 日本人の私がうっかり見落としていたことを、外国から来た女性に教わるなんて。なんだか不思議な気分になりました。そんなにパワーのある建物なら、行ってみない分けにいきません。

黄金の建物とは、1651年に造営された権現造りの上野東照宮の社殿のことです。同じ年に造営された唐門も金色をしています。

徳川家康、徳川吉宗、徳川慶喜を御祭神にする上野東照宮を訪ねました。

全国大名から奉納された大灯籠


唐門、社殿はまぶしい黄金色


唐門の左甚五郎作の龍の彫刻



東照宮とは徳川家康を祀る神社のこと。徳川家康=東照大権現が由来です。

日光東照宮はその規模も大きく、施された彫刻なども有名で、世界文化遺産に登録されています。そのために、ほとんどの人が東照宮といえば日光のそれを思い出すでしょう。

しかし、東照宮は全国にあります。特に徳川家康や徳川家にゆかりのある地に多く、埼玉県川越市、東京都、静岡県、愛知県、長崎県などに目立ちます。

上野東照宮の創建は1627年。天海僧正(川越 喜多院第27世住職)と藤堂高虎(とうどうたかとら・伊予今治藩藩主~伊勢津藩初代藩主)を、臨終を前にした徳川家康が呼び、「末永く魂鎮まる所を作ってほしい」と、遺言を残したのが始まりです。

天海僧正は藤堂高虎らの屋敷があった現在の上野公園の一画の土地に東叡山寛永寺を開山。そこに東照社を創建しました。

現存する金色の社殿(黄金殿とも呼ばれています)は、三代将軍・徳川家光が1651年に造り替えたものです。日光までお参りに行くことができない江戸の人々のために、日光東照宮にも劣らぬ黄金の社殿にしました。

黄金殿が完成するにあたり、全国の大名から灯籠が奉納され、その数は250基を数えました。現在でも48基の灯籠が残り、唐門両側には紀伊、水戸、尾張の「徳川御三家」から寄進された見事な灯籠が見られます。

ところで、上野東照宮は「出世」「勝利」「健康長寿」に特にご利益があると江戸時代から信仰されてきました。

確かに、“どんな世の中でも生き抜くパワー”がありそうです。

ミシェルが言っていた通り、上野東照宮はさまざまな危機をも乗り切ってきました。

幕末の上野戦争で寛永寺の伽羅が焼失しても東照宮に火の手はおよびませんでした。関東大震災でも無事。そして、第二次世界大戦では社殿の後方に爆弾が落ちたにもかかわらず、不発弾だったために難を逃れたというのです。

そのパワーは驚愕すべきものがあります。

各国の言葉で願いが書かれた絵馬


さまざまな種類があるのに驚き!


同じ花でも色の濃淡があります


毎年、春になると上野公園の花見の様子がニュースなどで放映されます。座る場所がないほどに人が集まり、酔い、大声で話す。その輪にいれば楽しいかもしれませんが、テレビで見るだけなら、少々見苦しく感じてしまいます。

江戸時代から桜の名所として知られる上野恩賜公園には公園中通りを中心に約1200本の桜があるのですから、一斉に満開になれば、その姿は見事のひとこと。人が集まるのも、もっともなのですが…。

ところで、上野公園にはもう一つのお花見があります。

それが、上野東照宮ぼたん苑です。

1980年の日中友好を記念して上野東照宮ぼたん苑は完成しました。例年、1~2月の冬ぼたんと、4月上旬~5月上旬の「春のぼたん祭」と、年に二度の公開があります。春の開園時期はちょうど桜が散った後ぐらい。お花見の混乱が終わってからが牡丹の時期ですから、落ち着いて観られるのではないでしょうか。

牡丹の原産地は中国北西部です。薬用に用いられていたといいますが、その美しさによって唐時代以降は「花の王」として観賞されるようになりました。

日本にも牡丹を観賞する文化が伝わり、現在に至っています。別名「富貴草」「百花王」「花神」などとも呼ばれる牡丹。その姿は堂々としており、色味は濃淡が混じり合い、観るものを魅了します。

苑内は他の方に迷惑をかけるような三脚を使っての写真撮影など、いくつかの規制はありますが、旧寛永寺の五重塔などを背景に牡丹を観るのは素敵なひとときです。



上野公園とその周辺はターミナル駅、アメ横などの繁華街もあり、いつでも混雑しています。それでも、近隣にはパーキングも多く、クルマでのおでかけも可能です。

もしもアルコール好きで、帰りがけには上野のガード下あたりで一杯というのなら、電車でのおでかけがいいでしょう。

パワーに満ちた東照宮と、可憐で立派な牡丹を観賞するおでかけ。ぜひ、ゴールデンウイーク前後に実行してみませんか?

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< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
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