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標高1583mの活火山・由布岳の山麓にあるのが由布院温泉です。温泉の湧出量は毎分4万リットルを超えて、同じ大分県の別府温泉に次いで全国第2位を誇ります。山間の盆地特有の朝霧に隠れる温泉地は風情たっぷりです。

狭霧台より朝霧に覆われた由布院温泉を望む

おみやげ店が並ぶ湯の坪街道

湯平温泉には石畳の路地もあり、風情を感じさせる

神秘的な金鱗湖。畔にはおしゃれなカフェもある。湖底からは温泉と清水が湧くために、天候によって湖面が湯気で揺れる

JR九州の人気特急の一つ「ゆふいんの森」。サロンスペース、大きなテーブルのあるボックスシートなどを装備

入浴料200円の下ん湯。駐車場やトイレは完備していない。入浴可能な時間は10時~22時

由布院温泉
●住所:由布市湯布院町
●日帰り入浴が可能な施設多数
●泉質:単純温泉、ナトリウム-硫酸・塩化物泉ほか
●源泉温度:76度ほか
●pH:8.6ほか


中国・上海などの日本の西側から羽田空港に戻るとき、九州の真上を通過するルートを飛行機が飛ぶケースが多い。
窓から下を覗くと、九州の山々から蒸気や煙があがっているのがわかる。雲仙地域、阿蘇の山、霧島周辺、桜島などで、九州が改めて「火の国」であるのを壮大な景色が物語っている。
火山が多いということは、天然の温泉にも恵まれている証拠である。雲仙、阿蘇、霧島、そして別府など、九州には名立たる温泉地が点在する。とくに、別府温泉は源泉数2217カ所、湧出量8万3000リットル以上と、共に日本第1位を記録する。
次いで第2位に位置するのが由布院温泉だ。由布岳のお隣、伽藍岳(がらんだけ・標高1045m)の中腹にある塚原温泉火口乃泉からも蒸気がモウモウと上がっているので、由布院もまた源泉に恵まれた温泉地であるのが想像できる。
別府温泉とは数字差があるが源泉数は895カ所。湧出量は4万4000リットル以上(日本温泉協会資料による。ゆふいん観光ホームページでは4万2000リットルとある)を誇る。

「由布院」なのか、「湯布院」なのか。由布院温泉について執筆するときに、少々悩まされるのが漢字の表記だ。
ガイドブックなどでも由布院と湯布院が混在していて、「あれ、どっちが正しいの?」と、疑問を抱いた読者も少なくないだろう。
温泉については「由布院」と表記される。元来、別府十湯の一つに数えられていたが、大正時代の行政区画の変更にともなって塚原温泉と共に、別府十湯から外された(現在、別府温泉は「浜脇」「別府」「亀川」「鉄輪」「観海寺」「堀田」「柴石」「明礬」で別府八湯と呼ばれている)。
別府十湯から外れた由布院温泉は、その後、現在の「人気温泉地」へ続く道程を順調に歩んだわけではない。
由布岳の東側、海岸沿いの別府温泉が繁栄していくのに対し、由布院は山間のひなびた温泉地のままだった。

昭和20年代後半には由布院は財政危機に陥っている。当時、湯治客でにぎわっていた湯平温泉を有する湯平村と合併。「湯布院町」が誕生する。ここで「湯布院」という表記が生れるのである。
以降、湯布院町の温泉となって、湯布院がガイドブックやパンフレットに登場する。とはいえ、由布院温泉が全国的な知名度を誇るまでには到底ならなかった。
昭和28年には盆地部を利用したダム建設が計画される。朝鮮戦争時には米軍基地もあった。依然として由布院はひなびたままだったのだ。

現在は平成の市町村合併により、由布市湯布院町となっている。由布市の誕生で、温泉名=由布院、地名=湯布院という構図も少々ややこしいものになっている。

由布岳をバックに、朝霧に覆われた盆地の幻想的な風景。個性的な旅館。ランチ付きなどが好評な日帰り入浴プラン。風情ある風景と軒を連ねるおみやげ店。ノーマン・ロックウェル湯布院美術館、由布院美術館、由布院ステンドグラス美術館、マルクシャガールゆふいん金鱗湖美術館などが点在する散歩道。公共温泉が湖畔にある神秘的な金鱗湖…。
今や「行ってみたい温泉地ランキング」の上位の常連で、年間400万人もの観光客が訪れる由布院温泉は、リピート率も60%という驚異的な数字を誇る。
ひなびた温泉地から人気温泉地への道程には、地域の人々の絆があった。

20軒ほどの宿しかなかった由布院温泉が、現在へ向けて最初の一歩を歩み出したのは40年ほど前だった。
世界的温泉観光地であるドイツ・バーデンバーデンに、由布院玉の湯、亀の井別荘の経営者を中心にして組織された由布院の新しいまちづくりのメンバーが視察に行く。町長の協力を得てドイツに向かった視察チームは、街が一体になってお客様を迎えることが重要だと気付く。
1軒の宿が豪華なビルになるよりは、温泉地全体で手を組んで観光客のためにできることを優先した。
それが、「湯布院映画祭」や「ゆふいん音楽祭」の開催である。
温泉地の宿泊施設の板前やシェフが揃って、地産の食材を使ったレシピを共有することも始まった。さらに、旅館が売上を互いに公表する。
これらの試みで、個々の施設という壁を取り除き、温泉地が一体になっていった。高層の温泉ホテルがなくても、巨大温泉地にある歓楽街がなくても、昔のままの風情ある温泉地が一体になって観光客を迎える強み。それは徐々に発揮されていく。

「新しい温泉地づくり」に向けての数々の試みがマスコミに注目されないわけがない。
平成15年11月18日。田口トモロヲの語りによって「プロジェクトX:挑戦者たち 湯布院癒しの里の百年戦争」がNHKで放送される。
全国に流されたその番組は、由布院温泉の大きな転機となった。温泉地の人々がバーデンバーデンに学び、山間の由布院で少しずつ実施していったことが、全国の人々に知られ、「行ってみたい」と思わせる動機になったのである。

博多と湯布院を結ぶJR九州の人気特急「ゆふいんの森」。大雨による洪水で光岡駅と日田駅間の橋梁が流出し、運休を強いられていたが、小倉経由での臨時ルートで再開され、再び由布院へ観光客を運び始めた。
足湯のある由布院駅より湯の坪街道や温泉街を抜けて金鱗湖へ向かう。
日帰り入浴の看板も目立つ。おいしそうな料理写真とともに、ランチ付き入浴プランが描かれた看板の誘惑に負けそうになる。軒を連ねるおみやげ店の店頭に並ぶ甘味も魅力的だ。
しかし、筆者は由布院温泉を訪れるとき、最初に行くのは金鱗湖の傍らに建つ「下ん湯」だ。茅葺き屋根の共同風呂で、生垣の内側に露天風呂があり、内湯にも壁がなく開放的だ。
混浴となっているが、金鱗湖を眺めに来た観光客の視線も気になり、入浴する人はそれほど多くない。
だからこそ、開放的な温泉を満喫するのにちょうどいい。

ひなびた温泉地だった由布院は、土地の人々の絆によって人気温泉地となり、たくさんの観光施設ができて華やかさを増した。
そのなかで、数少ないひなびた時代を想像させる湯が「下ん湯」だと思うのだ。

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全国各地から飛行機で博多、あるいは大分空港へ。大分空港からバスあるいはレンタカーで約55分。博多からJR九州特急で約2時間。クルマだと福岡IC~湯布院ICで約1時間30分。

※由布院温泉紹介のため、一部写真は「由布市公式ホームページ」より借用しております。
< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。旅雑誌などに連載中。
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