家族で何か新しいことに挑戦する! そこで、ファミリー登山はいかがでしょうか。日本には整備された低山登山ルートがたくさんあります。クルマで登山口まで行き、半日かけて山に登る。学ぶことも多いし、きっと楽しい思い出になります。
自宅から登山口までは軽快なドライブ
尾﨑ファミリーが選んだのは標高1213mの金時山
小学校高学年ともなると緩い登り坂を苦にしない
以前、このコラムで海の日の連休に仲間と登山をしているのを書いたと思う。もう始めて10年以上になるだろうか。還暦近いおとなが集まって、山小屋に宿泊して周囲の山に登ったり、トレッキングコースを歩いている。
乗鞍、上高地、伊豆の山、奥美濃の山などをこれまでに歩いたが、連休を利用するために、事前に宿泊施設を予約しないといけない。
山小屋に宿泊するとなると持ち物は多くなる。飲料水に加えて山小屋でちびりとやるために、アルコール類を持参する。つまみも必要だ。
天候優先ではなく、半年ほど前に宿泊施設などを予約して決行するのだから、雨具や着替え類も必要で、当然、リュックは重く、パンパンになる。
上高地ではテントやシュラフ、食材も持参したから、相当な荷物になった。15分ほど歩いたら休憩しないとどうにもならない重量だったと記憶している。
乗鞍では大雨になったために、雨具を付けても下半身がびちゃびちゃになって難儀した。登山道が濡れていたために、とても歩きにくく、滑落に注意しないと危ない箇所もあった。
正直、おとなばかりの山行だから決行できたし、後の笑い話になったのだと思う。仮に小学校低学年の子どもがいたら、不安材料ばかりでとても実行できなかっただろう。「雨でも決行!」なんて言っている場合ではなかったと思う。
しかし、考え方を変えたらどうだろう?
島国でありながら、日本には高山も低山も数えきれないくらいの山がある。標高の低い山のなかには、比較的安全な登山ルートが設置されており、登山口に駐車スペースが確保されているところもある。
ならば、天気が崩れる心配のない日を見計らってクルマででかけ、登山口から山頂までの往復を、子どものペースに合わせて半日がかりで歩けばいい。
これなら余分な荷物は不要だし、お弁当と飲料、汗をかいた時のための着替えのシャツぐらいを持てば十分だ。
ハードな岩場などがない山を選べば、スニーカーでも存分に歩ける。登山ウエアがなくても、普段の動きやすいスタイルででかければいい。
そして、おとながあらかじめ登山の基礎知識を学んでおけば家族をリードできるし、都市部から近い山を選べば携帯電話が通じるから、いざというときにも安心だ。
家族で行ける低山ルートは各地にたくさんあるのだから、ぜひ挑戦してみてほしい。
金時山から富士山を望む
仙石原や芦ノ湖方向の景色もみごと
「最近、登山を始めたんですよ。この前は高尾山を越えて城山方面まで小学校6年の息子と一緒に行きました」と、尾﨑淳一さんが言った。
これまでも冬はスノーボード&スキー、夏はキャンプを家族で楽しんでいる尾﨑ファミリーが、新たに登山を始めたという。
「調べてみると、けっこう登りやすい山が東京周辺に多いことがわかりました。天気予報を見てから出発しても、十分に登山が楽しめます。次のターゲットは南足柄市の金時山です」と、淳一さんが続ける。
金時山は金太郎が産湯をつかったと伝えられる夕日の滝をはじめとする「金太郎伝説」が残る山だ。標高1213m。標高415mの地蔵堂を起点に、夕日の滝を経由して金時山を目指すルート。地蔵堂から足柄峠を経て金時山を目指すルート。標高670mの金時神社入口や金時登山口から山頂を目指すルートが整備されている。
地蔵堂や金時神社には無料駐車場があるので、そこまでクルマで行けば、すぐに登山が開始できるのがファミリー向きでもある。
尾﨑ファミリーの参加メンバーは高尾山にも同行した小学校6年の快生くん(名前のとおり、同行すると晴れるとのこと)、陽菜さん(大学生)、桃菜さん(高校2年)、蓮菜ちゃん(小学2年)、來菜ちゃん(4歳)とパパ&ママ。どうやら、大学生の長男は脱走したらしい。
クルマを停めて登山開始。淳一さんのリードで山登りが始まった。普段からチアを踊っているだけに、蓮菜ちゃんが元気いっぱいに歩く。來菜ちゃんも続く。小さな子どもだから…という心配は無用だった。
落ち葉や枯草で茶色く染まった冬の金時山登山ルートは、子どもたちにとって宝物の宝庫でもある。木の枝から落ちて道端に転がっている小さな松ぼっくりを見つけては、快生くんが立ち止まる。これが春だったら、植物観察もさぞかし楽しくなるに違いない。
低山登山をするのなら猛暑時以外がいい。標高が低いために、とくに関東から西の太平洋側の山々は、登山ルートも猛暑になる。こうなると、熱射病などのおそれもある。
猛暑時以外の天候に恵まれた日が登山日和だ。花の時期、虫たちの活動が活発になる時期、野鳥のさえずりが響く時期は、登山ルートは観察や自然を知る絶好の勉強の場になるだろう。
富士山をバックにポーズをとる蓮菜ちゃん
家族で記念写真。一生の記念になる写真だ
山頂に近付くと登山道からの眺望に子どもたちの視線が釘付けになった。
仙石原高原とその先にある芦ノ湖が眼下に見える。そして、正面には富士山の雄姿。金時山は低山とはいえ、絶景広がる山である。
子どもたちもこの景色を見て、「山に登った価値」をごく自然に悟る。歩かなければ見られない景色があることに気付くのだ。
チアダンスが得意な蓮菜ちゃんが富士山をバックに足を上げる。そのきれいなポーズを家族が写真におさめる。絶景の中での得意なポーズ、これは一生の記念になるだろう。
そして、全員で記念写真。冬の快晴の日に金時山登山をした思い出だ。
登山を終えておとなが思うこと、子どもたちが抱く感想は異なるかもしれない。しかし、家族が共通の時を過ごしたという事実は一生の宝物になる。
☆
さて、2018年。新しいことに家族でチャレンジしたいと思っている人も多いだろう。子どもをスイミング教室やサッカークラブなどに初めて入れるというご両親がいるかもしれない。
そのなかで、家族全員でできることにトライするのも大事なことだろう。
ちなみに、尾﨑淳一さんは登山経験が豊富だったわけではなく、むしろ登山に関しては初心者といっていいレベルだという。それでも、最低限の知識を学び、家族と共に登山を始めた。
そして、歩いたからこそ見られる極上の景色を家族に提供することに成功した。「登山を始める」…それは、とても素敵な決断だったとぼくは思う。
ネットで「低山ハイキング」「初心者」「登山」「日帰り」などのワードで検索すると、全国各地におすすめの登山ルートがあるのがわかる。
雪が解けたら、ファミリー登山を始めてみませんか?
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。