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“涼しさ”が気持ちいい季節になりました。エアコンが発明される前から、船遊びは“涼”と風情がある、とっておきの暑気払い遊びだったようです。海外や日本のとくに街並みが保存された地区に、船遊びができる場所があります!

イタリア・ベネチアのゴンドラ


結婚記念撮影を船上で(タイ・ホイアン)


長野・安曇野でクリアボート体験。水草が清流に漂っていた


僕はかつて東京・江東区の木場にある運河沿いのマンションに住んでいた。

隣は運河に船着き場をもつ屋形船屋さんだ。花見の時期を境に、夕方になると木場駅から笑顔を浮かべた大勢の人たちが屋形船に乗るためにやって来る。ときには、観光バスが横付けされることもあった。

日本における船遊びの歴史は諸説あるものの、日本書紀にも記載されており、平安時代に定着したとされている。

江戸時代には将軍や大名だけでなく、裕福な商人たちも興じるようになった。江戸では「涼み船」と呼ばれ、大川(隅田川)での船遊びが盛んになる。屋形船と呼ばれ始めたのもこの頃だ。

船上で涼を求め、飲食を楽しむ屋形船だが、第二次世界大戦を機に衰退する。しかし、1970年以降に老舗の船宿が木造屋形船を復活させ、今日に続くのである。

屋形船は水上で涼を求め、大いに飲食を楽しむのが恒例だが、飲食をしない“舟遊び”も日本の各地に点在している。

純粋にその地域の景観を川の上という“低い目線”で楽しみ、川を渡る風を感じるものだ。飲み食いをしなくても、身近に川の流れを感じ、川によって生まれた川岸の景観を眺めるのは気分がいい。

暑い日になればなるほど心地良いから不思議だ。

以下は、筆者がこれまでに日本各地で乗った、おすすめの船遊びだ。どれも川の流れが造り出した景観(奇岩や渓流も…)を行く。

周囲はそれほど開発されていないから、水の流れも美しい。ときには魚が跳ねるのも見られる。これからの時期、ぜひ訪れてみたいスポットばかりだ。

高千穂はとくに船頭がいるわけではないが、火山と水が創り出した景観が、あまりにみごとなのでリストアップした。

【岩手県 猊鼻渓・船下り】
http://www.geibikei.co.jp/

【埼玉県 長瀞ライン下り】
http://www.chichibu-railway.co.jp/nagatoro/

【長野県 安曇野クリアボート】
http://www.azuminokisen.com/

【長野県 天竜川ライン下り】 
http://tenryuline.com/

【宮崎県 高千穂峡貸しボート】
http://takachiho-kanko.info/sightseeing/taka_boat.php

松江城の周囲のお堀で舟遊びができる


岡山・倉敷の美観地区で船に乗る


上記が自然美を楽しむ川船遊びであるのに対し、その土地の自然背景に加えて、長い歴史や文化を楽しむ船遊びもある。

話は飛ぶが、先日、首都圏にある巨大テーマパークに遊びに行った。春休みに入っていたので、家族連れ、春休みを謳歌する学生、そして年輩の方々も来園し、多いに混雑していた。

ファストパスで効率よく回ろうとプランを立てて奮闘するのだが、それでも長い空き時間ができる。

そんなときはショーを楽しんだり、普段はあまり乗らないアトラクションの出番になる。それで乗船したのがゴンドラだ。

イタリアのベネチアは、水の都と呼ばれている。アドリア海の最深部に位置し、潟の上に築かれた街並みには縦横に運河が設けられている。

中世にベネチア共和国の首都として栄えた街だが、現在でも水の都であるのは変わらない。普通なら駅からホテルまで“クルマのタクシー”を利用するが、ここでは水上バスや水上タクシーの出番だ。市街地の交通手段も水上バスがメイン。水上バスを降りれば、運河に挟まれた土地にある建物の横の狭い路地を歩き、運河にかかる太鼓橋を渡らなければ先に進めない。

運河に浮かぶゴンドラに座ると視線は低くなる。狭い水路から見上げるベネチアの建物は歴史を感じさせ、施された彫刻などが楽しい。ときには船頭が歌を披露する。

現在では、ゴンドラは“運河の足”というよりも観光の目玉だ。観光客はゴンドラからの視線で街並み散策を堪能する。

同じように、中国の上海からクルマで2時間ほど行った烏鎮(ウーチン)やベトナムのダナンからクルマで40分ほどの距離に位置するホイアンといった古都も、運河によって発展した街である。

これらの街は運河によって物流の要となったり、市場ができて繁栄したという過去があるが、現在ではその機能も保ちつつ、観光の街として人気を得ている。

そこでの船遊びはベネチア同様、魅力に溢れている。クルマでまわるよりもゆっくりと、徒歩でまわるより広い範囲を、じっくりと眺められるからだ。



首都圏の巨大テーマパークのゴンドラは、ベネチアの交通手段の一つであるゴンドラを模したものだ。ベネチアと同様に船頭の漕ぐ艪によって進む。

巨大テーマパークの船頭も、ベネチアの船頭と一緒で、歌によって約15分の乗船を締めくくった。観客はその歌に拍手を贈り、再び混雑している園内へ散っていく。ただし、ゴンドラでの短い時間は、喧騒を忘れさせる、贅沢な時間だった。

柳川の船遊び


錦糸卵が珍しい柳川名物のウナギせいろ蒸し


ベネチアやホイアン同様、日本の各地にも古い街並みを船でまわる観光遊覧船がある。
筆者が印象的だった遊覧船をまずは紹介したい。

【茨城県 潮来遊覧船】
http://www.itako-yuuransen.com/kumiai_info.html
利根川下流には、川の流れによって運ばれた土砂によって形成された三角州がある。その土地を利用して江戸時代に新田開発が推進され、加藤洲地区には12の橋が架けられた。
さらに、“あやめ”が咲く里としても人気。ここでの船遊びは、人の手によってできた新田と、橋、それらをめぐる魅力がある。

【岡山県 くらしき川舟流し】
https://www.kurashiki-tabi.jp/see/3598/
江戸時代は“天領”の地として物資を積んだ川船の往来で繁栄したのが倉敷だ。川沿いには白壁の街並みが残る。また、日本美術だけでなく、倉敷の実業家である大原孫三郎がヨーロッパから収集したグレコやマネ、モネ、マティスなどを始めとする洋画のコレクションがすばらしい大原美術館も川沿いにある。

【島根県 ぐるっと松江 堀川めぐり】
https://www.matsue-horikawameguri.jp/
松江城は全国で現存する12の天守のうちの一つ。附櫓、望楼式の五層天守、千鳥が翼を広げたような「入母屋破風(いりもやはふ)」などと見応え十分。また、周囲にはお堀があり、さらに武家屋敷なども保存されている。堀川めぐりは、これらの景観を楽しみながら、松江城のまわりを行く遊覧船だ。

【福島県 柳川お堀めぐり】
http://www.yanagawa-net.com/ohori.html
お堀が張り巡らされた柳川の城下町は、今日でも風情たっぷり。ナマコ壁の蔵なども残っている。ちなみに、明治から昭和初期に活躍した詩人・北原白秋は柳川藩御用達の海産物問屋に生まれている。船遊びの後は、柳川名物の有明海の魚介類やご存じ「柳川なべ」、そしてせいろ蒸ししたウナギ(錦糸卵も用いられる)に舌鼓を打ちたいものだ。



以上、筆者がこれまでに旅して乗船した遊覧船のうち、いい思い出になったものを掲載した。

暑い時期の船遊び体験は、エアコンを効かせた室内とは異空間の、快適で落ち着きがあり、知的好奇心も満たされる経験になる。ぜひ、この夏は川遊び体験を!


おまけ動画
ベトナム・ホイアンの夜の川遊び


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< PROFILE >
篠遠 泉
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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