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夏から初秋にかけて北海道や山形、福島、茨城、信州などにドライブででかけると、山麓や山村の畑に小さな白い花を見つけることができます。その多くは、そばの花です。それらの花の実が黒くなってくれば、やがて収穫の時期。そば打ちに最適なシーズンがやってきます。




これまでにずいぶん県庁の観光にかかわる事業のお手伝いをしてきた。観光関連のパンフレットの制作や、各県が全国にアピールしたい場所に取材に行き、その様子をさまざまな雑誌や新聞、ウェブサイトに執筆するのだ。

また、大手新聞社のウェブサイトに「いいもんだ田舎暮らし」という移住者にスポットライトを当てた連載をもっていたから、その時は毎月2組の移住成功者の家を訪ねた。

各地へ取材に行ったので、ずいぶん多くの地域名店を訪ね、そこでしかできないアクティビティに興じ、有名になっていなくても素晴らしい景色に感動したものだった。

印象深いのは、東北や茨城、信州で訪ねたそばの名店だった。

そばは寒冷な地域でも育つし、火山灰で覆われた土でも栽培できる。もともと中国南西部の高原地帯が原産地。霜や風に弱いという一面もあるが、種を植えてから60~70日で収穫できるのもそばの利点の一つ。

つまり、米が育たない地でも、そばなら栽培できるのである。また、そばは短期間で収穫できるため、ほかの作物を育てる合間に栽培することで、収穫と雑草などの除草効果という二つのメリットも期待できるのだ。

暑い時期に北海道や東北、茨城、栃木、信州をドライブすると、狭い山間部や山村などに白い小さな花をたくさん咲かせたそばの畑を見ることができる。

花はやがて実となり、黒くなったら収穫して碾いてそば粉となる。ただし、安土桃山時代以前の日本では“そば切り”は行われておらず、そば粉を固めて捕食食材として食べられていた。

長野県木曽郡の寺で発見された古文書にそばを麺状にして食べるという記述があり、それがどうやら日本の“そば文化”の最初の一歩のようだ。その文書が記されたのは江戸時代になる30年ほど前である。







各県庁の観光課や広報広聴課の職員はそば好きが多いのだろうか。そう思えるほど、県関連の観光事業をお手伝いしているときにそば店に案内された。

“山形そば街道”に店を開いた移住者。畑を畝(うね)状にしてていねいにそばを栽培しているブランドそば「常陸秋そば」の農家と手打ちそば店。へぎそばと旬の山菜の天ぷらが絶妙な十日町のそば店…。印象に残るそば店を取り上げたらきりがない。

なかには、たとえば戸隠の参道で代々続く老舗店もあった。しかし、案内されたそば店に多かったのは転職組の店だった。自分の夢を実現する手段として“そば”を選び、修行をして開店したというお店が多かったのだ。

北は北海道から熊本の阿蘇山麓まで、いわゆる“第二の人生”的なそば店にずいぶんおじゃました。

そんな新店のなかにも、これは!と思う名店があった。そばの打ち方、切り方もよし、出汁もよし。加えてお店の雰囲気もいい。なにより、ちゃんともりそばを800円以下で提供している。僕の個人的な感覚だが、もりそばで1000円以上取る店はどうも信頼できない。

反面、「だいじょうぶか?」と思う店も何軒もあった。

第一に、そばの切り方が雑。そば作りにはこだわっていても、出汁がうまくない店が意外と多い。そして、そばの味と出汁の質に見合わないもりそば1000円以上の価格設定。こんな店は口では「いいですね」と言いながら、記事には掲載しなかった。

信州・安曇野に「上條」という手打ちそば店がある。店主の上條光水さんは写真家でもあり、エッセイストとしても活躍する人だ。

彼は長野の自然をテーマに写真を撮り続けており、僕がかつて「長野冬季オリンピック公式プログラム」を作成したときに、写真をお借りし、長野の自然美のすばらしさをインタビューさせていただいた。

この本は公式本だったので、英語版、フランス語版も作成し、全参加選手に配布され、市販もされた。現在でもスイスのオリンピック博物館などに保存・閲覧されている。

上條さんの美しい写真は、全世界の人の目に触れることになった。それだけ、上條さんの写真と長野の自然美に対する目は本物だった。

その上條さんが始めたお店だ。そばも絶品なら出汁もいい。徹底的なこだわりが見える。それでいて、もりそば800円。再訪したい名店である。




酷暑の時期が過ぎれば、やがてそばの実は収穫される。待望の新そばの季節の到来である。

そばの名所にでかけて、新そばを味わうのもいいだろう。ブランドそばとなった常陸秋そばの産地、常陸太田市にはそば目当てでドライブする人がこの時期、後を絶たない。自治体も例年、「常陸秋そばスタンプラリー」などを開催して後押ししている。

でも、食べるだけではなく、そば打ちにも挑戦してみてほしい。そばのお店を出すとなると厳しい修行が必要だが、そば打ち体験なら誰でもできる。各地でそば店を開くきっかけは、そば打ち体験をしたことだという店主も少なくない。

つまり、そば打ち体験は誰でも気軽にできるのだ。

実際、常陸秋そばが人気の茨城(2016年そば生産量全国2位)で、そば打ち体験を調べると、そば打ち体験ができる施設がずらりと15施設も出てくる。信州に目を転じても同様にそば打ち体験できる施設が並ぶ。

そばの実を粉にする過程からはじめる体験教室もあるが(常陸秋そばでは栽培から体験する施設もある)、たいていはそば粉が用意され、そこに水を入れて混ぜることから体験開始。

ダマを細かくして、体重をかけながら水をなじませて玉状に。麺棒を使って玉状から薄く伸ばしていく。均一になるまで伸ばしたら、それを重ねて麺切り包丁で切って仕上げる。

こうした過程を経て自分で作ったそばを茹でて食べる。包丁の多少の乱れがあってもドンマイ。自分手作りそばの味は格別だ。

もしかしたら、「将来はそば店を開きたい」と思う人がいるかもしれない。それほど、そば打ち体験は魅力的なのだ。

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●コラムに関連のあるサイト

手打ちそば上條 
http://www.kamijo.com/index.html

常陸秋そば
https://www.pref.ibaraki.jp/bugai/koho/kenmin/syun/291117.html

常陸でそば打ち体験
http://www.ibarakiguide.jp/seasons/sobafes2011-5.html

長野 そば打ち体験
http://www.nagano-tabi.net/modules/enjoy/category3_23_91.html
< PROFILE >
篠遠 泉
休日と旅のプロデューサー。主な出版物に『ぶくぶく自噴泉めぐり』『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがあるほか、『温泉批評』『旅行読売』などに執筆中。観光地の支援活動も行っている。
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